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「ごきげん」と「長寿」のサイエンス

「ごきげん」と「長寿」のサイエンス

文:坪田 一男 (慶應義塾大学医学部教授)

『ごきげんな人は10年長生きできる ポジティブ心理学入門』 (坪田一男 著)


ジャンル : #趣味・実用 ,#ノンフィクション

 その後、アンチエイジング医学の研究の一環として100歳以上の長寿の方々にインタビューするようになってから、「幸せだから、長生きする」という仮説を信じる気持ちはより強まりました。さらに、人はどんなときに「ごきげん」になり「幸せ」を感じるのか、そのメカニズムの解明に光をあてた「ポジティブ心理学」との出会いは大きなものでした。というのも、「どうすれば、よりよく生きられるか」という研究結果を、アンチエイジング対策としてすぐに役立てることができる実践的な学問だったからです。

 その成果には、たとえば尼僧を対象とした研究があります。この研究はアメリカの尼僧180人が1930年代に書いた手記からポジティブな言葉とネガティブな言葉を抽出して数値化し、健康状態や寿命と対照するというものでした。すると、同じ修道院で暮らし、同じ食事をし、同じように規律正しい生活を送っていたにもかかわらず、ごきげんな尼僧はそうでない尼僧に比べ、約9年も長生きしたということがわかったのです。

ごきげん戦略がお得なワケ

 ではどうやったら、幸福度を上げることができるのでしょうか。本書ではその具体的な実践方法を、「心のエクササイズ」や「運動」、「食事」などの観点から紹介していますが、大切なポイントは「ごきげん」とは自然に沸き起こる感情ではなくて、自分で積極的に選び取る意思であり、戦略なのではないかということです。

 今の世の中は、ふきげん戦略よりも、ごきげん戦略のほうがうまくいく確率が高いわけです。たとえば100万年前、人類がまだ狩りをして暮らしていた頃は、食べることが「生存」のための絶対条件だったので、「飢えるかもしれない」「殺されるかもしれない」というネガティブな感情を持っていなければ生き延びられなかったかもしれない。

 ところが今は社会が安定して、明日も明後日も食べられるようになった。飢えという生命をおびやかす危機にかわって、いま私たちが日常的にさらされているのは、仕事や人間関係のトラブルといったものです。すると今度は、笑って受け流したり、ストレスをため込まないように生きることのほうが、大きな意味を持ってくる。ごきげんでいたほうが血圧も血糖値も高くならずに、健康に生活できるわけですから。

 ですから「ごきげん」に生きたいと願う人すべてに読んでもらえたらと思っています。ふきげん戦略をとる人たちに、この本を読んで自分の生き方を変えてほしいとは言いません。でも、ふきげん戦略を改めたいという人たちが読んで下さるのも、大歓迎です(笑)。

ごきげんな人10年長生きできる
坪田一男・著

定価:756円(税込) 発売日:2012年07月20日

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