2014.10.09 書評

老人を狙う「新たな」犯罪 その悪質かつ巧妙な手口と、悪人たちの生々しさ

文: 吉野 仁 (文芸評論家)

『後妻業』 (黒川博行 著)

 老人をねらった犯罪は、近年、増え続けるだけではなく、ますます巧妙化しているようだ。

 たとえば大掛かりな振り込め詐欺事件で、犯人グループが銀行員や刑事などを装い、ちょっとした劇団まがいの演技によって多額の現金を奪おうとする例がある。身も心も衰え、判断力がなくなったような年寄りを騙すのは容易いこととはいえ、取り締まりも厳しくなり、もはや「オレオレ詐欺」の単純な手口では通用しなくなったということだろう。

『破門』で直木賞を受賞した黒川博行の受賞第一作となる『後妻業』もまた、資産を持った独身の老人を狙う恐ろしい企みが描かれた犯罪小説だ。

 九十一歳になる中瀬耕造は、最初の妻に先立たれたのち、これまで二度再婚していた。一人目は再婚の翌年に死亡、二人目は半年ほどで別れた。そのあと、結婚相談所で知り合ったのが武内小夜子だった。彼女は、現在六十九歳。ある日の昼、耕造は散歩の途中で倒れ、救急病院へ運ばれた。一命はとりとめたものの、意識不明のままだった。じつは小夜子は、結婚相談所を経営する柏木という男とグルになり、耕造の資産を手に入れようとしていた。

 耕造には二人の娘、尚子と朋美がいて、とくに朋美は小夜子のことを最初から怪しんでいた。耕造が亡くなったのち、小夜子から遺言状となる公正証書を見せられ、彼女らは驚いた。小夜子が耕造の遺産をすべて相続することになっているのだ。そこで朋美は知り合いの弁護士の守屋に相談し、詳しい事情を話した。すると、それは明らかに後妻業だという。資産家の爺さんの後妻に入り、その遺産を掠めとろうとする犯罪である。

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