書評

老人を狙う「新たな」犯罪 その悪質かつ巧妙な手口と、悪人たちの生々しさ

文: 吉野 仁 (文芸評論家)

『後妻業』 (黒川博行 著)

 読みはじめたとたん、その悪質で大胆な手口にぞっとしてしまった。本作では、まず金持ちの老人を亡き者にして大金を奪おうとする加害者側の視点で語られ、しかもひょうひょうとした関西弁のやりとりが続くからだ。まさに高齢化が進んだ現代日本ならではの凶悪な犯罪が生々しく語られている。

 作中でも触れられているが、この後妻業は、数年前にマスコミを騒がせた女詐欺師による婚活連続殺人とは異なる犯罪で、この小夜子の手口は、明らかに計画的なプロによるものだという。老い先短く孤独な男たちを見事にたぶらかし、犯罪沙汰にならない手法で死に追いやる。振り込め詐欺が、警察の追及といたちごっこで年々進化しているのと同様に、おそらくこの後妻業も法律に触れないよう、周到でぬかりなく行われているのだろう。それだけに本作の前半までは、素人がいくら不審を抱いても、たとえ警察に助けをもとめようとも、泣き寝入りするほかないのでは、と思うほどである。

 そこで正義の味方、弁護士の登場だ。守屋弁護士は、さらに南栄総合興信所へ小夜子の調査を依頼した。事件を担当することになったのは、本多という男。彼は八年前に警察を辞め、いまは南栄総合興信所で探偵として働いていた。

 これまで、ヤクザの争いや美術品や骨董などを扱う詐欺師たちの騙し合いをいくつも描いてきた作者だが、本作でも口八丁手八丁で相手をたぶらかすかと思えば、無慈悲な暴力で脅かそうとする連中をじつにリアルにとらえている。ギャンブルや情欲に目のない日常、やたら派手な光り物を身につけたがる趣味や生態までもが細やかに描かれているのだ。身近にこうした人間のいない者でさえ、生々しく感じるに違いない。

 なにより本作の面白さは、単に犯罪の真相をつきとめようとする展開にとどまらない。物語が進むにつれ炙りだされる小夜子と柏木の過去と本性も驚かされるものだが、一方の本多という元刑事がまたクセものなのだ。後半、予想もできない展開へとなだれこむ。

 後妻業の連中が、いかに老人から金銭を引き出し遺産を独り占めしようと企むか、その悪質かつ巧妙きわまりない手口もさることながら、読者はさらに奥深い人間の本性を知ることだろう。



こちらもおすすめ
インタビューほか<黒川博行インタビュー> 悪徳警察官OBをマトにかけろ!(2018.08.01)
書評麻雀とハニャコさん(2016.06.15)
インタビューほか騙(だま)し合いの果て、金塊はどこに(2009.01.20)
後妻業黒川博行

定価:本体740円+税発売日:2016年06月10日