2018.08.01 インタビューほか

<黒川博行インタビュー> 悪徳警察官OBをマトにかけろ!

「オール讀物」編集部

『泥濘(ぬかるみ)』

『泥濘』(黒川博行 著)

 二蝶会若頭補佐のヤクザ、桑原保彦。建設現場に難癖をつける暴力団への対抗策として、別の組筋のヤクザを斡旋する“サバキ”で収入を得る建設コンサルタントの二宮啓之。トラブルを呼ぶ二人の“疫病神”が今回マトにかけるのは、警察官OBグループだ。話は桑原が新聞記事を二宮に見せることから始まる。大阪府警OBの友好団体「警慈会」関係者が歯科医院を乗っ取り、診療報酬詐欺を主導し逮捕されたという内容だ。

「執筆のきっかけとなった事件では、詐欺で逮捕された元府警警部補が運営するNPO法人は警察の関連団体を装っていました。ただ、警察OBが現役時代のコネクションを使って違法すれすれの経営コンサルタントをしているといった悪い噂は以前からある。その上、暴力団やヤクザを捜査する四課は、他の課に比べて、停年前に退職する刑事が多いと聞きます。これは小説のタネになると思いました」

 警慈会が騙しとった金を奪おうとする桑原。しかし、うかつに手を出せない理由があった。警慈会の背後にいる暴力団「白姚会」と桑原は、ある会社の倒産整理のシノギで五年ほど前に揉めていた。それを組長同士で手打ちにしてもらっていたため、白姚会を標的にすることは自分の親分の顔をつぶすことになるからだ。そこで二宮を利用しようと考える。府警捜査四課巡査部長で、不良刑事の中川からの情報も得ながら、二人は警慈会の正体を暴いていく。疫病神シリーズの読みどころである、桑原の思惑に巻き込まれる二宮のヘタレっぷりや、桑原のイケイケぶりは、今作でも健在だ。

「桑原は暴力的な面もありますが、次のシノギを見つけるために、新聞や本を読んでアンテナを張っている。この勉強熱心さは中川と共通する性格です。四課の刑事も、事件の火種を事前に察知するため、日々目配りをしないといけませんから。反社の桑原を使って儲けようとする二宮こそ、実は一番食えない男なんです」

 白姚会の構成員を橋から吊るして脅し、警慈会の主要メンバーがオレオレ詐欺の金主であることを吐かせた桑原と二宮。白姚会の関係者が経営するフロント企業に乗り込むが、桑原は銃撃され心肺停止になってしまう。

「ヤクザという組織形態はあと二十年ほどでなくなると言われています。正業を持ち、素性を隠して、欧米のマフィアのように地下に潜るのです。桑原のような代紋を背負ったヤクザが暴れ回るのは、線香花火の最後に大きくはぜる火花のようなものかもしれませんね」


くろかわひろゆき 一九四九年愛媛県生まれ。八六年『キャッツアイころがった』で第四回サントリーミステリー大賞を受賞。二〇一四年『破門』で第百五十一回直木賞受賞。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 8月号

2018年8月号 / 7月21日発売 / 定価980円(本体907円)
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泥濘黒川博行

定価:本体1,800円+税発売日:2018年06月29日