インタビューほか

〈ロング・インタビュー〉硫黄島の戦いに日本人の本質が見える

聞き手・構成: 高橋 誠 (フリーライター)

『名をこそ惜しめ 硫黄島 魂の記録』 (津本陽 著)

――西竹一中佐(昭和七年のロサンゼルス・オリンピック大会の馬術大障害飛越競技で金メダル)の最期を大曲さんは見ているわけですね。

 西戦車連隊は、東条によって満州から硫黄島に行かされた。どうせ死ぬと思っていたからか、西連隊はものすごい戦いをしますね。栗林中将も騎兵で西さんも騎兵、気が合っていた。死ぬ時は一緒と思って合流しようとしたが、途中に谷があってたどり着けなかった。大曲さんは、西さんは最後まで生きたかったのだと手記に書いていますね。何とかして生きたかったが、追い詰められて戦車砲に撃ちまくられ、自殺していたと書いています。

――そのように将兵が勇敢に戦う他方、軍中枢が頽廃していたことを、長年書かれてきた信長などの戦国武将の判断力・統率力の優秀さなどと比較されていますが。

 右の端と左の端ぐらいの違いがありますね。中枢の連中は何も世間を知らないからです。大学を卒業して、陸軍は参謀本部、海軍は軍令部に入った秀才でしょ。専門の軍人は階級でしか人間の値打ちを考えない。明治以降、人並みの智恵が出たのは、松下村塾の末端だった山県有朋や桂太郎まで。彼らが維新の元勲になったでしょう。戦う時は先ず補給ラインを考え、停戦の調停をどの国に頼むかと、それを決めてからでないと開戦しなかった。下積みの生活をしてきたから世間というものを知っているわけです。その後は、兵棋演習といって将棋の駒を動かすようなことをやって、勝ったとか負けたとか。兵隊は自給自足だといって、輜重(しちょう)なんかを一番ばかにしていた。新兵器の情報を海外の大使館が流してきても、大部隊を作りたいから肉弾で行けと。日露戦争は肉弾で戦って世界最強といわれ、それから三十年ぐらいしか経っていないから信仰として残っていた。日本は日露戦争のときにも支那の軍閥に兵器を売っているし、第一次大戦ではヨーロッパにまで駆逐艦を売っていて、兵器の先進国だった時期もあった。だんだん辻政信みたいな出世欲の塊みたいなのが出てきて、事件を起こしては、一銭五厘で兵隊を集めて、武器の足りないところは肉弾で補えと。実際肉弾で夜襲に来られたら、最新の武器でも弱いんですよ。そういう夜襲の力をただで使おうとした。積極的は積極的だが、国民の人権なんかはまったく無視したやり方です。

――題名の『名をこそ惜しめ』は、『保元物語』の「命な惜しみそ、名を惜しめ」から取られたのでしょうか。

 「戦陣訓の歌」というのがあるのです。
 日本男児と生まれ来て
 戦さの場(にわ)に立つからは
 名をこそ惜しめ武士(つわもの)よ
 散るべき時に清く散り
 御(み)国に薫れ桜花

 東条が、「生きて虜囚の辱を受けず」という『戦陣訓』を作ったときにできた歌です。この『戦陣訓』で日本の兵隊がどれだけ死んだかわからない。

――本書で、将兵の一人一人の名前が記されているのは、顕彰という意味もあるのでしょうか。

 これだけの戦いの手記を残された方々ですから、実名を載せるべきだと思ったのです。鎮魂ですね。今回の執筆にあたり、非常に生き生きと書かれた多くの手記に感嘆しました。大本営の記録などではなく、こうして実際に戦った人々の言葉にこそ真実があると思った。野呂邦暢氏も書いていますが、戦いの中にこそ、その民族の本質が出るのです。戦場で弾が飛んでくると、普通は怖くなって砲弾の跡の穴とかに隠れるでしょう。ところが、日本兵は銃とか大砲の音を聞くと途端に血がバーッと頭に上って、無意識で飛び出して突っ込むそうです。それが大和魂というのではないか。そういった日本人の遺伝子が、戦後の日本の活力にもつながってきていたんじゃないかと思うのです。

 最近、敵が攻めてきたらどうするかと日本の若い連中に質問したら、八割が逃げますと答えたそうですが、外国に逃げたってマイノリティでいじめられるだけですよ。日本の有難みをそのときになってわかったってもう遅いんです。国の主権を守るということは非常に難しいけれど、しっかりした政治家が出てきて、軍国主義にならずにやり遂げることは必要だと思います。アメリカも覇権国家になって信じていいのか悪いのかわからない状況ですから。日本は金だけ持って武器なんて無くてもいいと言っていたら、誰かに食われてしまいます。もう少し覚醒して欲しい。日本人は、昔バカな戦争をやって負けたらしいよ、というだけでは死んだ人に済まない。書き残して置かなくてはいけないと思ったわけです。

――津本文学にとっても大きなターニング・ポイントになる作品ですね。ありがとうございました。

名をこそ惜しめ 硫黄島 魂の記録
津本陽・著

定価:本体667円+税 発売日:2008年12月04日

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