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小説を書くということは人を書くこと

小説を書くということは人を書くこと

文:青山 文平 (作家)

『白樫の樹の下で』 (青山文平 著) 第18回松本清張賞受賞作


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 小説を書かなかった10年は今になってみれば充電期みたいな頃で、人を見る目、世の中の営みを見る目が密になったような。それを小説で確認してみたい気持ちが次第に強くなってきました。

 そうして、動かなかった指が突然動き始めて、去年の3月から書き始めて1月ほどで一気に書き上げることができました。

 何故純文学ではなく、時代小説だったかは、自分の目の変化を確めるためには、時代小説ジャンルのような、しっかりとしたフレームワークの方が適していると思えたからです。

 そのほかに私は歴史上の英雄だとか、武将に関心があまりなくて、書くなら市井に住む普通の人たちの切ない話だろうと。他人のために泣ける、そのことで自分も救われるそんな話を書こうと決めました。小説を書くということは、人を書くことだと思いますから。

 江戸の最初の頃や幕末などの、時代が激しく動く時代より、天明の成熟した制約の多い時代の方が私には書ける気がしました。

 小説を書くにあたっては、細かな設計図は作りませんでした。刀の話が最初に来て、指先からパート、パートが現れて、尋常じゃない、意外性のある様子を盛り込んでいけたんです。日本で羊を最初に飼育した御薬園の話とか。こいつは使えそうだなんていうエピソードがどんどん出てくる。書くに当たって苦労した記憶は、あまりありません。

 純文学を書いていた頃は、友達に原稿見せても「わかんないよ」なんて言われて、独りよがりだったんだと思いますね。読者のことなんてまったく考えていませんでした。

 でも今回は違いました。このシーンは読者はどうかんじるんだろうか、読者は何を期待しているんだろう、なんて想像しながら書いていました。読者とキャッチボールをするような感じでしたね。

 これから先、限られた時間の中で、江戸の人たちの営みの中にある、切なくて、泣ける話を書いていきたいと思います。

白樫の樹の下で
青山 文平・著

定価:1450円(税込) 発売日:2011年06月24日

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