──その惑う少年である鈴は、好きだった父親が幼馴染である泉美の姉と不倫の最中に事故死します。母は地方の資産家の娘で、自分しか愛せない人物。その母に、鈴はまた苦しめられます。今回の作品もそうですが、あさのさんが描かれる小説は、案外、母親について厳しい視点が多いですね。
あさの 主人公対母親の関係をどういうふうに見つめていくのかというのは、今回自分の中の課題でした。私と母との親子関係だったり、自分が母親としてコンプレックスを持っていたり、なんと理不尽なことを子どもたちに強いてしまったんだろうという後悔もあったりして、基本的に親というのは、子どもに対しての圧制者であるという意識からどうしても抜けきれないんですね。世の母親というものを信用できない思いがあって、母親に対する厳しい目となって作品に出てきてしまうんじゃないかと思います。それは多分に自分への批判も含んでいるんです。
本当は母親ってもう少し力を持っていると思うんですよ。子どもを産み、育て、しかもいつかは手放さねばならないとわかっている。しかしなんの見返りもなく自分を犠牲にしていくわけで、それはすごく大きな力である気がするんですね。でもまだそれを私は書ききれなくて、いずれは母という立場の物語を書いてみたいなと思います。
──今回の物語では、鈴が母に対して一生許さないと思っていた気持ちも、美那子と恋愛をしたことで少し変容し、母親に対して近づいていきますね。
あさの 近づいたというか、清算しようと思うことができたんですね。もちろん拗(こじ)れた関係は清算できていないんですが。連載中では、母親が鈴に対してメールを打ちそれに鈴が答えるというシーンがあったのですが、そんな安易なものではないだろうと単行本化にあたり削除しました。母との関係を解消していくためには、鈴が美那子の力を少し借りながらも、最終的には自分の力だけで解消していかなければならないんです。母親と息子の関係というのは濃くて、やっぱり息子は母を慕うものであると思うし、そこに強い愛情がある反面、憎悪も大きい。その関係がどんなに歪(いびつ)であっても、誰かを本気で好きになることによって、修復できる兆しみたいなものが感じられるんじゃないかと思いました。それが若い恋愛であるならばとくにそうじゃないかと。
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