──恋愛をして鈴は変化を遂げますが、一方、泉美と同様、鈴の幼馴染である隆平は、死んでしまった泉美の姉にとらわれ続ける、頑なさを持っています。鈴に隆平がいるように、同性同士の関係として、後半は美那子の親友だった芙美の存在がクローズアップされてきます。
あさの 隆平にこそ、自分の力だけで強くなってみせるという十代らしさがあります。実は連載が始まったときは芙美という存在を全く考えていなかったんです。鈴と隆平、二人の男の子同士の、年上の大人の女を愛してしまった少年と、過去をひきずっている少年を描きたかったんです。そこになぜ芙美が出てきたのか、最初わからなかったのですが、書いているうちに、鈴との関係だけに美那子を埋没させたくないとの思いがあったんだとわかりました。真剣な恋愛をしながらも、二人だけしか見えない狭い関係ではなくて、同等の関係を日常の中に見つめていたくて出てきた登場人物なんです。これも隆平と鈴との関係を描いたからこそ出てきたように思います。
──もう一つあさのさんの物語で特徴的なのが、舞台となる地方都市。今回は水が象徴的な、美しい小都市の飛鱗(ひりん)です。地方ならではの閉塞感と自然の情景がもたらす開放感というのが生きています。
あさの 私は都市での生活というのがほとんどないので、都会で暮らしていった先にどんな生の営みがあるのかがまったくわからないんですね。舞台を地方にすることによって、自分が皮膚で感じている世界に近づけるんです。資料などは別にして、書くときにはこの皮膚感覚だけに頼るしかないところがあって、人の愛し方や憎み方などを含めて、地方のこの空気の下なら、この自然の、この景色の中であれば人がどんな風に動くというのが想像できるんです。
自分が山と川に囲まれて育った人間なので、今回水の美しい都市にしたというのに意図は全くなかったのですが、書き終えてみて、この二人に相応(ふさわ)しい場所というのを気付かないうちに設定していたんだなぁと思いました。
──これを書き終えた今、これからも恋愛小説を書かれるお気持ちはありますか?
あさの 現代小説で、たとえば三十代の男女の恋愛が書けるかというと書けないと思います。このかたち以外の恋愛を書けるのかというと全くそんな気はしなくて、自分の中にあるたった一つの恋愛のかたちを書いた気がします。むろん、それは物書きとしての今のわたしの状況であって、『あした吹く風』を書いたことで、獲得した何かが発酵したとき、新たな恋愛のかたちを書けるような気もしますし、そこらへんを自分に期待したくもあるのですが。
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