居場所を与えてくれた日本
──しかし、日本での生活も決して楽ではありませんでした。来日直後、しばらく公園暮らしを余儀なくされますが、通っていた小学校の「給食のおばちゃん」に助けられます。
サヘル 文字通り命の恩人です。母ともよく話すんですが、本当に日本の人にはお世話になっています。母も私も日本が大好き。母は日本で死にたいとすら言っています。それくらい、苦しいときに日本は私たちを助けてくれた。
──確かに「給食のおばちゃん」は親身になってくれましたが、あとは自力で乗り越えてきたという感じも受けますが。
サヘル 日本は私たちを追い出そうとはせず、居場所を提供してくれたのです。母子としての絆を深めてくれたのも、この日本だったし、自由とはどういうものかということも教えてくれました。イランにいたら、「孤児院出身」ということは恥ずかしくてぜったいに言えなかったでしょう。それが、日本ではメッセージとしてちゃんと伝えることができた。これは、とてもすばらしいことです。それから、抽象的ですが、これから生きていくうえにおいて、仕事や生活だけでなく、長い時間をどのように過ごしたらよいかという、ひとつの目標を示してくれたのです。
──サヘルさんがいち早く日本語を覚えられたことで、その後の暮らしが楽になりました。お母さまもずいぶん救われたのではないでしょうか。
サヘル 来日してすぐに入った小学校の校長先生から、一対一で日本語を習ったんです。「給食のおばちゃん」にも教わったので、わりと早く日本語がつかえるようになりました。母の通訳として銀行にも行きましたし、郵便局で家賃や電気代を払うなど、生活をするうえで必要なことはすぐに覚えました。同じ年頃の子どもができなかったことを、すぐにできるようになったんです。私が銀行に行くと、みんなびっくりしていました。小さな子が背伸びをしてATMを操作し、おカネを引き出したり振り込んだりしているんですから。
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