──なるほど。真実を率直に伝えれば怖いものはない……、いい言葉ですね。その言葉通り、サヘルさんはこの本ですべてをさらけ出していますが、そうはいうものの、現実問題として、やはり書きたくなかった部分はあったと思うのですけれど。
サヘル いえ、すべてを出すことが自分の将来にマイナスイメージを与えるとは考えませんでした。というのも、マイナスのことを心配したら、自分について本当のことを書く意味がないと思ったから。本を出すからには、都合のよいところばかりを見せても仕方がないし、ありきたりになってしまう。
私がなぜ、すべてをさらけ出そうと決意したかというと、私にはいくつかダークな部分があって、そういった陰の部分を乗り越えたところにいまの自分があるので、ふだんは表に出ない側面をこの本をとおして多くの人に知ってもらい、私を好きになってほしいと思ったからです。
とにかく、本当の自分を知ってもらいたい。これまでの私は、やっぱりどこか、みんなと同じでいたいというのがあって、自分自身をあまりアピールできなかったし、「素(す)」を表に出すのが怖かった。本のなかにも出てきますが、いじめにあったときも母にすら打ち明けられなかった。
そのあたりを詳しくおうかがいしたいのですが、ふつう、人に知られたくないことは出しにくいものです。自分自身について正直に書こうとしても、なかなかうまくいかない。
サヘル 私はブログを持っていて、そこでも自分の考えを率直に伝えようと心がけています。私にとって書くことが、自分自身をもっとも正確に表現できる手段のひとつになりました。ダークな部分を出すことで、私のなかの何かが、自然に語ってくれるようになった。たとえばインタビューのとき、「何かメッセージがありますか」と問われて、例のお笑い番組でもそうだったのですが、私、言いたいことがいっぱいありすぎて、それらを一生懸命出しているつもりでも真意がうまく伝わらず、悩んでいたんです。
ところが書くことによって、頭のなかにしまい込んであったものをいったん、本という別の場所に移すことができた。するとタンスのなかが空っぽになった感じで、引出しの整理が容易にできるようになったんです。それまでごちゃごちゃに詰まっていたのを、それぞれの引出しに分類して入れることができるようになった。そうしたら気持ちに余裕ができて楽になったというか、身軽になった。その後は引出しから適切な答えをひっぱりだしてくればいいので、どんな質問でも率直に答えられるようになったし、メッセージを的確に伝えられるようになったんです。
──そのメッセージのひとつが、戦争によって被害を受けている子どもたちについて、もっと知ってもらおうというものですね。
サヘル もしかしたらこれはつくり話じゃないの、と思われる方がいるかもしれないのですが、ここに書かれていることはすべて現実です。しかも、このような境遇にある子どもたちは、中東やアフリカなど、いわゆる貧しい国には大勢います。私は幸運にも孤児院を出て、こうして日本で暮らすことができただけなのです。この現実が遠い世界のものではなく、実は身近に存在しているものだということを認識してもらいたいのです。
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