──「滝川クリサヘル」として注目され、テレビやラジオ、舞台などで活躍中のイラン出身のサヘル・ローズさんですが、四歳のときイラン・イラク戦争によって家族全員を失い、その後もさまざまな苦難を体験してこられました。この本では、育てのお母さまとともに困難を乗り越え、懸命に生きた軌跡が克明に綴られています。
サヘル はい。確かにこれは、一般的に言うと、かなり悲惨な話ということになります。読者の多くはきっと、「さぞ、つらかっただろうね」とか「大変な思いをしたね」という感想をお持ちになるでしょう。でも、私からすると、あまり大変、大変と思ったことはなかったのです。何もかもが嵐のように過ぎ去ってしまったので、感じる余裕すらなかったのかもしれません。いまになってみると、どこが大変だったのかなと。
──おカネがないのに習い事をたくさんしたり、歯の治療代で本を衝動買いしたり、貧乏に関しては、確かにあまり悲壮な感じを受けません。
サヘル そこにあるもの、限られたものでも幸せにやることができたので、私のなかでは、貧乏はあまり苦にならなかった。それはたぶん、母が、私に貧乏を感じさせないよう努力して育ててくれたおかげだと思っています。母はいまでもよく、「必要な分だけでいいのよ」と言うんです。
ダークな部分を出すことで伝えたい
──もう、ほとぼりは冷めたと思いますけれども、あるお笑い番組で生い立ちを少し話されたら、「不幸を笑いのネタにするとは何事か」というようなコメントがブログに多数書きこまれ、話題になりました。
サヘル 私はけっして自分の体験をネタにするつもりもないし、それを売りにしようとも思っていません。そのことは、この本を通じて理解していただけると思いますし、共感してくださる方は大勢いるでしょう。しかし半面、やはり、どこかで嫌悪感を抱く方も出てきます。正直なところ拒否反応は怖かったし、それがもっとも不安な部分でもあった。そこで、この本を書くにあたって母に相談したんです。
「本当のことを明かせば明かすほど、信じてもらえなくなるだろうし、何を言われるかわからない。批判的な意見もたくさん出るにちがいない。つらくなるのは目に見えているから、本を出すことがいいかどうか、わからないの」
すると、母はこう言いました。
「世界にはさまざまな人がいて、それぞれ異なる意見を持っています。だから、読者全員が共感することなど、まったくあり得ない話です。いろいろな意見があって当然だし、そこから学ぶべきことはたくさんあるから、それはひとつの意見として聞いておきなさい。認めてくれる人たちに感じてもらえるだけで充分。本当の自分を出しきれば、何も恐れることはないのよ」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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