同い年、同郷のクリエーター2人が語り合う映画、ものづくり、高校時代、そして今、見えてきたもの
辻村深月(つじむら・みづき)
1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞してデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞。著書に、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『水底フェスタ』『光待つ場所へ』『島はぼくらと』など多数。デビュー10周年記念の3社新刊リレーフェアとして『盲目的な恋と友情』(5月)、『ハケンアニメ!』(8月)、『家族シアター』(10月)が進行している。
藤巻亮太(ふじまき・りょうた)
1980年山梨県生まれ。小学校からの同級生3人で2000年にレミオロメンを結成、ギターとヴォーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲が多くのファンから支持されている。11年に起こった東日本大震災の後、被災地を1人で訪れ、歌を届ける「歌の炊き出し」を続ける。12年にバンドの活動休止を発表、ソロ活動へ。ファースト・ソロアルバム「オオカミ青年」をリリース。最新情報は、http://www.fujimakiryota.jp
辻村 藤巻さんと初めてお会いしたのは、映画の初号試写のときでしたね。以前から、もちろん藤巻さんのことは存じていましたが、まさか、こんなふうにお仕事で関われる日が来るとは思っていませんでした。
藤巻 僕も、当然、辻村さんの名前は知っていて、お会いする前から小説は拝読していました。実は、僕たち、同学年で、なおかつ故郷が山梨で、それも隣町同士なんですよね。
辻村 そうなんです。デビューされた時は、隣町からスターがでた! という感じでした(笑)。
藤巻 そんなに大きな町でもないですからね(笑)。
辻村 藤巻さん人気は大変なもので、地元の日本航空学園滑走路で、大規模なライブをされたことがあったのですが、私のまわりの若い子であのライブに行っていない人はいないのではないかというくらいの勢いで、行っていないと非国民扱いでした(笑)。
藤巻 それがもう8年前くらいなんですよね。この映画は、山梨放送開局60周年記念作品ということで、矢崎監督はじめ、山梨の方々が多くかかわっていて、それで、山梨出身の僕にも、映画音楽をと、声をかけていただきました。それが縁で原作者の辻村さんにも会えたという感じですね。
辻村 映画で結ばれたご縁で、こうしてお会いしているのがとても不思議です。藤巻さんは、初対面から、とても話しやすい方で、びっくりしました。熱狂されるカリスマがこんなに気さくなのかと(笑)。
藤巻 だって、同学年ですから(笑)。なんだか、そう思った瞬間にとても親近感が湧いてきたんです。
辻村 おそらく辿っていくと共通の知り合いがいると思うんですが、そうではなくて“仕事”という形でお会いできたというのが、うれしかったです。
私は、藤巻さんと初対面だった初号試写で初めて映画を拝見したのですが、とても感動しました。冒頭のシーンでは、「私、ここ書いた!」と思ってしまいました(笑)。自分の原作を、あの世界観で矢崎監督に撮っていただいたうえに、ラストで、藤巻さんの歌声が響いてきて、ああ、この歌で見送ってもらえるんだと思い、感激しました。
藤巻 映画化というのは、今回の場合ですと、まず原作があって、それを再解釈して映画にするという作業ですが、僕が関わったのは、その中の音楽作りで、最初に原作を読ませていただいて、その世界観を受け取り、それから、映画が完成する前の途中の段階のものを何度か観せてもらいましたので、原作から受けた印象と映画としてヴィジュアル化されたものの持つ世界観と、その2つの中で、どういう音楽を作っていくか、を考えていくプロセスでした。
原作の印象は、群像劇でありながら、名前にまつわるミステリーでもあるというものだったので、これをどう映画にするんだろうと最初は思いました。
辻村 私も思いました(笑)。
藤巻 映画になった時には、原作とは切り口を変えて、群像の中のある人物にフォーカスを当てて、その人物を中心に展開していく作りになっていたんですよね。歌詞を書いていく時に、群像劇だと、「僕ら」という言葉で作っていこうかなと思っていたのですが、それだと少し違うなと。監督と話した中で、高校時代と10年たった同窓会の2つの物語それぞれで、揺れ動く男女に注目していると聞いて、「ああそうなのか」と思い、そこから、「僕と君」という言葉がでてきました。そういうプロセスがあったから、辻村さんが映画を観てどういう印象を持たれたかなということが気になっていたんです。
辻村 そうだったんですね。今、お聞きしていて、面白いなと思ったのは、そうやって1人の視点人物の世界観を丁寧に歌で表現していただいたことで、結果として、この世代の人たちが持っている「僕ら」すべてに対応しうる曲に、「アメンボ」がなった気がするんです。だから、その空気感を忠実に書いてくださったんだなあと思いました。
藤巻 ある意味、それは、それぞれのものづくりの面白さですよね。小説は小説で完成された世界があって、それを原作とした映画が作られて映画は映画のやり方があって、そこに音楽というものが関わっていくというのが。
辻村さんは、何歳まで山梨にいたんですか?
辻村 私は、一度大学で県外に出ましたが、また就職で戻って28歳までいました。
藤巻 僕は18まで山梨で。小説も映画もそうなんですが、そこで暮して見てきた景色や雰囲気がとても感じられて、その部分を大事に曲作りできたらいいなと思っていました。
辻村 そのせいか、ものすごく情景が浮かぶ曲ですよね。
藤巻 山梨は、というか、特に僕たちが住んでいたところは盆地ですよね。
辻村 そう、だから暑いんですよね(笑)。
藤巻 去年も、日本の最高気温ランキングとかで上位に入るような土地で。
辻村 とても蒸し暑くて、暑さと湿度が同じところにあるんです。だから、他の土地で初めて夏を過ごした時に、からっとした暑さというのもあるんだと知って驚いたほどです。
藤巻 僕が歌でお手伝いできる部分というのは、たとえば、そういう夏の暑さの質の違いとか、生まれ育って染みついている風土や景色を、曲に込めるということかなと思いました。ああ、こういう景色のところで物語が展開されたんだなあということがイメージとして浮かぶといいなと思って、曲を作りました。
辻村 ありがとうございます。映画の中に出てくる場所も、自分がよく知っているところではないけれども、とても既視感のある場所を選び取ってくださっていて、ああ、この河原はわかるな、という感じでした。やはり、そういう場所の力というのがあるのかなと思います。
主題歌の「アメンボ」は、水川さんが演じられた高間響子の屈託とか、木村さんの演(や)られた鈴原今日子が持っている、ずっと囚われたままの人に対する苛立ちややるせなさといったものが、歌詞の中の「飛べない」というところにつながってきて、映画を観終わった後にこの曲が聞こえてくる幸せを感じました。
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