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『太陽の坐る場所』映画化記念対談 辻村深月×藤巻亮太(レミオロメン)

『太陽の坐る場所』映画化記念対談 辻村深月×藤巻亮太(レミオロメン)

「本の話」編集部

『太陽の坐る場所』 (辻村深月 著)


ジャンル : #小説

抜けない棘と抜かない棘

辻村 実は、私にとって、今年がデビュー10周年なんですが、これを書いていた時が、ちょうど高校を卒業して10年くらいの時で、そして、デビュー10年目にこの映画化があるというのは、不思議なご縁を感じます。

藤巻 僕の場合は、レミオロメンを組んで10年目の2010年に、全都道府県を回るツアーをして、それを節目として、自分たちを見つめ直すというフェーズに入ったんです。その中で、新たなソロ活動というのが始まって、今に至るんですけれど、10年というのは、やはり、自分を見つめ直すという大きな節目ではあるのかなと思います。

辻村 今回、映画のスタッフの方から「同じクリエーターのお二人として」という言い方をしていただけて、とてもうれしかったんです。藤巻さんの活動に比べたら、一個人でやっている作家の活動というのは、非常に地味なものですが、同郷で同い年で、少し先を歩いていてくださる方がいるというのはものすごくうれしいことなんだなと、改めて思いました。藤巻さんが地元を大切にされているので、私もこれからはちょっと反省して地元を大事にしようと思っています(笑)。

藤巻 逆に、僕は20代の頃は、東京に出てきていて、地元への思いというより、全国へ意識が向いていた部分があったのですが、30代になってから、やはり山梨は自分を育んでくれた原点だと思い到りました。ここがなければ今の自分はないということに、ようやく気がついて、山梨にいろいろ恩返しができたらいいなと思い始めました。それがここ何年かですね。

 監督と話していた時なんですが、人はそれぞれ、いい思い出だけではなくて、痛い思い出やチクチクしたものも抱えていると思うんです。それが棘だとしたら、「抜けない棘」はありますが、「抜かない棘」というのもあるのかもしれないなと。その棘があるから、自分の心がバラバラにならない。だから、自分の中でそれは抜かない、というものもあるのではと……。矛盾しているけれども、大事な棘というものもあって、10年くらいたつと人はその棘ともう一度向き合うのかなと思うんです。その時に、棘が自分の一部になるのか、ようやく抜けるのか、人それぞれなんでしょうけれど、ネガティブと捉えられる棘さえも、肯定していく――小説もそうですが、映画の中で監督もそこを大事に描きたいという思いがあって、僕もとても共感できました。だから、曲をつくる上でも、そこを大切にしたんです。

辻村 とてもいいお話ですね。抜かない棘――それを失ってしまったら、書けなくなってしまうだろうなというものは確かにあるのかもしれません。

 10年目になって今思うのが、以前持っていた、こうしたい、ああしたいという具体的な目標ではなく、常に、切実さを失わず、惰性で仕事をしないという気持ちでいたいなと。今の作品を、10代の頃の自分が読んだらどう思うだろうと考えることがあって、当時の自分からみて、大人になってもエッジのたった人でいてくれるはずだという信頼があると思うので、それを裏切るようなものは書かないと決意しています。

藤巻 10年目といえば、僕は30代になって友達ができ始めましたね(笑)。心を開いていなかったのか、20代の頃はぜんぜん友達ができなくて(笑)。そのうちの1人が登山家の野口健さんで、彼は富士山の清掃活動を長くやっていて、その縁で山梨とも深く関わっています。僕も先ほど話したように地元に返していきたいという思いがあり、その2つが重なって形にしたいなという話になった時、2人でトークとライブのイベントを始めたんです。今年の10月に2回目をやる予定で、現場でゴミを10年間拾っている人にしかわからないリアリティがあって、とてもためになるし、世界遺産というものへの見方もかわる。富士山という世界遺産のA面だけでなくB面の部分も見てもらいたいですね。そんなトークと山梨で育んできた僕の音楽の2つの表現が合わさって面白いイベントになればなあと思っています。普段2人ではそんな話はしないんですけれど(笑)。

辻村 30代で心を開ける友達に出会って、そこから刺激をもらって、次の活動につながっていくというのは、本当にいいですね。

――最後にこれから映画を観る方へ一言、お願いいたします。

辻村 高校生で観たら、つらい気持ちになる方もいるかもしれないですが、これがテーマだからこの感情を持ち帰ってほしいという映画ではないので、観る人それぞれがそれぞれの形で楽しんでいただければなと思います。

藤巻 生きていくというのは、たぶん自分ではない誰かと関わっていく歴史なので、その中で、傷つかないで生きることは不可能です。この映画で、それさえも自分なんだよ、と肯定してくれる優しさや強さを感じたので、そこを感じ取っていただければ、うれしいなと思います。

(2014年7月25日 文藝春秋にて)

掲載つんどく! vol.4

©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

山梨放送開局60周年記念作品「太陽の坐る場所」

10月4日(土)より、全国ロードショー
9月27日(土)より、山梨にて先行ロードショー
配給:ファントム・フィルム

http://taiyo-movie.jp/

太陽の坐る場所
辻村深月・著

定価:本体600円+税 発売日:2011年06月10日

詳しい内容はこちら

つんどく! vol.4
「別册文藝春秋」編集部 編

発売日:2014年08月29日

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