インタビューほか

初の推理小説で人の哀しみを描く

「本の話」編集部

『星月夜』 (伊集院静 著)

2010年、夏。東京湾で見つかった老人と少女の遺体はロープで繋がれていた。捜査主任の畑江や鑑識の葛西、若手の草刈や皆川をはじめ、捜査陣の懸命な努力で身元が判明するが、被疑者の特定は難航。物語は東北の大地へ、神話の町・出雲へと広がっていく。事件の鍵を握るのは、老人の美しい孫娘の「宿命」と、黄金色の銅鐸、そして、余りにも哀しく光り輝く、夜空の星だった――。

――鍛冶職人や考古学者が登場し、名画や銅鐸が事件を解く鍵となったり、ゴルフ場や海、桟橋などで重要な出来事が起こる。伊集院さんの人生を彩ってきたさまざまな要素が、余すことなく盛り込まれています。

「そうですね。少年時代から抱いてきた鍛冶職人への憧れや、これまで数々の名画に心を揺さぶられてきた記憶、遥か古代に思いを馳せ、想像力の翼を広げていくことの愉しさ――。
 これらすべては、旅の途中に出会い、それぞれに立ち止まって、自分の五感を研ぎ澄ませてじっくりと見つめてきたものでした。
 そう考えてみるとこの作品は、自分がここ20数年もの間、いや、61年の人生の中で、国内外を問わずずっと旅を続けてきた、その集大成といえるものになっているようにも思います」

――もちろん、解きや事件の真相が徐々に見えてくるストーリー展開など、推理小説としての醍醐味も十二分です。
 特に若手からベテラン、現場から鑑識にいたるまで、それぞれの持ち場で懸命な捜査を続ける刑事たちのスピリットあふれる日々が、実に丁寧に描き込まれていますね。

「鮮やかなトリックや解きはありませんが、私なりに考えた『捜査の原点』のようなものを描いたつもりです」

――刑事が被害者やその家族の心情を思い、関係者を前に怒りを露にするシーンはもちろんですが、地道な、しかし妥協を決して許さない現場検証や遺留品捜索の場面も、読んでいて刑事1人1人の息遣いが聞こえるようです。さきほどの棚田の情景とは打って変わって、第1級の警察小説のような読み味でした。

「これまで自分が面白く読んできた推理小説にあったような、血湧き肉躍る、ワクワクするような場面も盛り込んだつもりです。ただ、一貫していえるのは、刑事それぞれがひとりの人間としてどう生きているかをしっかりと描きたい、そう思って書いていた、ということですね」

――本作では、人と人の関わり、絆といったものも、重要なテーマとなっています。幼少期を過ごした仲間との絆、警察官同士の絆、中でも特に祖父と孫娘という、世代を1つ隔てた家族ならではの愛情に満ちた関わりが印象的です。そういったつながりを描くことで、ストーリーの輪郭が鮮やかに浮かび上がってくるように感じます。

「今回は奇しくも2組の『祖父─孫娘』を登場させています。これは、『日本人はこれまで、家族の中で、一体何を継承してきたのか』ということも、この作品のテーマの1つに据えていたからでしょう。
 また、祖父と孫娘という関わりは、親子や兄弟姉妹といった家族の絆の中でも、今の自分にとって、とても関心のあるつながりです」

――また台湾や韓国など、さまざまなルーツを持つ人物も多数登場しますね。

「日本人の世代間の継承、というテーマを考えていくと、出自はさまざまながらも日本に住むようになった移民たちのことにも必然的に触れることになりました。
 今回、出雲を舞台の1つとして選んだのも、そういった日本の歴史の奥深さ、人間模様の複雑さを描くのに適していた、ということもありますね」

――随所に伊集院さんの作品らしさを感じさせながら、最後までドキドキしながら読み進められる極上のエンターテインメントです。

「とにかく推理小説としては処女作ですから、みなさんには大きな、あたたかな目で見守っていただければ、と思っています。最近はデビュー当時とは違って、私を担当してくれる編集者のほとんどが年下になりました。そこで、新しい編集者を迎えるときにはいつも、彼らに自分の好きな本を1冊持ってきてもらうことにしています。実は、この作品の小説誌連載時の担当編集者が持ってきたのが、1冊の推理小説でした。いつかは書いてみたいという思いに、そんな出会いが重なってこの作品が生まれました。振り返ってみると、正直、大変な作業でしたね。今は、全ての推理小説作家を尊敬しています(笑)。
 それからもう1つ。私は今、すでに次の推理小説にとりかかっています。『オール讀物』の新年号(平成24年1月号)から連載が始まります。こちらも是非、楽しみにしていただければと思っています」

星月夜
伊集院静・著

定価:1785円(税込) 発売日:2011年12月10日

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