書評

十年間、大切に保管された
心臓病の犬と家族の「幸福な物語」

文: ヒロコ・ムトー

『天使になったシュクちゃん 世界一愛された犬の七年半』 (ヒロコ・ムトー 著)

 時は流れ、昨年の夏、この本にも登場する「やすか姉ちゃん」ことYASCAさんが、「シュクちゃんの絵を描かせてください」と言ってきた。十年前、本にしようとして、一家のお嫁さんでイラストレーター志望の彼女に挿絵を依頼したのだが、まだ若かったYASCAさんは、シュクちゃんを喪った悲しみでなかなか絵が描けなかった。

 あれから彼女も母となり、長く患っていた父親を昨年の春に見送り、ふと自分を振り返った時、彼女の中に生まれた死生観と十年経っても変わらないシュクちゃんへの愛が「今なら描ける。描きたい!」と思わせたそうだ。

 この十年という長い期間で、犬や猫など、ペットと人間の関わりは大きく変ったように感じる。ペットはもうただのペットではなく、大切な家族の一員であり、孤独な人の心を支える大きな存在となっている。

 だが、その一方で、小さな生命を粗末に、時に残虐に扱う事件も増えてきた。新聞で雑誌でテレビで、そんな心無い事件を見る度に、胸が震えるくらい口惜しく悲しく思う。犬だって猫だって鳥だって、この世に生を受けたものはどんな動物でも幸福になる権利を持っている。愛され守られて生きる権利を持っている。人は、小さな生命と関わったら、最後まで愛と責任を持って見届けるべき、だと思う。ミナコさん一家がそうしたように。そしてその姿は、普通で当たり前の姿なのではないかと思う。

 もしかしたらシュクちゃんの物語は、今の時代の方が必要とされているのかも……。そのために十年の月日が必要だったのかも……そんな気がしている。

天使になったシュクちゃん 世界一愛された犬の七年半
ヒロコ・ムトー・著

定価:本体1,280円+税 発売日:2015年03月09日

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