人間が継承していくもの
──ところで、この作品を含めて万城目さんの小説は親子であったり世代間を扱っていますが、伝統や、平和を維持する精神といったものを継承する大切さを感じさせます。これは意図して書かれているのでしょうか。
万城目 まさにそうです。『鹿男あをによし』(幻冬舎)の中で鹿に「人間は文字で書かないとなんでもかんでも忘れてしまう」ということを言わせていますが、鹿は人間が文字に残さないがため忘れてしまったことを代々伝える生き物として登場させているんです。今度の作品では逆に、人間自身が文字にするのを自ら禁止して、人と人の間で口承で伝え続けていたらどうだろうと思いました。関係者以外、誰にも言わない、これを厳格に守る。それだと、まわりからは絶対にわからず、世の中に知られずに継承されると考えたんです。何を伝えるのかというときに、そこを大阪という土地に当てはめて小説を組み立てました。
──橋場、松平、宇喜多、蜂須賀……登場人物の名前も歴史を知っていると面白いですね。
万城目 好きな歴史上の人物の名前には、どうしてもいい役柄を与えてしまいますね。真田幸村が大好きなんです。だから真田はいの一番につけましたし、島左近も好きなので、茶子や大輔の身近に島君を登場させたり。
──ひとり、ゲーンズブールというフランス系の女性の名前が登場します。シャンソン歌手から取ったんでしょうか。
万城目 そうですね。でも、僕は親父さんのセルジュじゃなくて、女優の娘のシャルロットの方です。むしろ旭という名前に意味があるんです。秀吉の妹の旭姫に由来します。
──―登場人物が本当に個性的で魅力的です。彼らのキャラクターでシリーズものにできるのではないでしょうか。
万城目 それはまだ考えられないですね。ある編集者の方が最後の場面、会計検査院が次の仕事でベトナムにODA(政府開発援助)の検査に行くところを読んで、豊臣の次は織田ですかと言ったんですが、ベトナムまで織田信長の話を持っていくつもりはありませんね(笑)。これで完結です。
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