A あと、弟子から修業時代の話を聞いてると面白いね。「あの親方、私らが作った椀の味見すると『おい、魔法の粉持ってこい』って怒鳴るんですよ」とか。でも、そういう店のほうが結構、評判いいから不思議なんだよね(笑)。
B ネットの場合は特にそうですが、客が書いているから、テレビや雑誌などで誰かが美味しいと言い出すと、それに引きずられてぐーんと評判がよくなる。単純に情報だけが欲しいんなら、ネットは確かに早いけれど、評価を信頼できるかどうかとなると疑問符がつきますよね。
A 私もネットのグルメガイドはよく見ているけど、以前「お土産にいただいたこの店のケーキが美味しかったので五つ星」なんて書き込んでいる人もいてびっくりしたな。関係者や常連を動員して評価点数を上げている例も見受けるしね。
B 誰かと店の話をしていて、この人がうまいという店は大丈夫だけれど、あの人がいくら絶対いいといっても疑問視しちゃう場合ってあるじゃないですか。
A よくわかる(笑)。
B 味に「絶対評価」はないけれど、自分と同じようなテイストの店や料理を好きな人はいますよね。だから私は、ネットのグルメサイトを見るときは、自分と好きな店が重なる人を探して、その人が薦める店をチェックしているんです。
A なんだ、私と同じだ。
味、サービス、内装、値段、歴史の複合で、満足感を得る
編 今回の『いい店』は、これまでのノウハウを放出して、あらためて、いま一番うまい店を選ぼうという企画ですが、これまでの選定と違ったところはありましたか?
B 五十年近い歴史のある本ですから、ベスト本といわれると緊張しましたね。で、とりあえず一九六七年の初版を読み直したんですが、すごく面白かったので結局、前回のものまで全部読んじゃいました。
A 最初の『いい店』は面白いよね。戦前からの食い物の蘊蓄(うんちく)がいっぱい詰まっているし、五十年前なのに羊肉料理店が二軒出ていたりする。
B この十年ばかりの『いい店』の選考過程を考えると、新しい店を発掘することに重きを置いて、昔から変わらずにいい料理を出している老舗を外しがちにしていたという反省がありました。
A そう、ほかのガイドにさんざん出ている店はそちらにまかせて、われわれは世に出ない名店を紹介しようという方向性だったよね。それは悪い考えではないと思っているけれど、今回は「いま一番いい店」だから、すべてゼロベースで各ジャンルの名店を選んでみたわけです。
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