- 2015.11.12
- インタビュー・対談
『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンに衝撃を受けて――戌井昭人さんインタビュー(後編)
「本の話」編集部
『俳優・亀岡拓次』『のろい男 俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)
ジャンル :
#小説
――亀岡が劇団に入ったのはスティーブ・マックイーンの『ブリット』を見たからですが、戌井さんもそうなんですか。
僕はジャック・ニコルソンですね。『カッコーの巣の上で』になんなんだ、こいつ!と衝撃を受けて。『ブリット』は学生のとき、好きな奴がいたんです。「お前、いっつも黒いタートルネックだな」と言ったら「いや、これ、ブリットっすよ」(笑)。10代の頃に映画に強烈な印象を受けると、ずっと引きずっていきますよね。今日もそうですが、僕がダンガリーシャツを着てしまうのも、『カッコーの巣の上で』の影響が大きいのかも。
――ご覧になったのはいつごろですか。
中学のときかな。それまでも映画は好きでしたが、山城新伍がテレビで『カッコーの巣の上で』のことを話していたんです。なんで山城新伍だったのか覚えてないのですが、観てみたら、映画も面白いし、演技する人たちもすごい。精神病院の他の患者たちも、本物みたいな迫力。ジャック・ニコルソンのすさまじさに圧倒されました。
――それで、俳優を目指された。
学生のときも芝居をやってたんです。演劇専攻だったから、年に1本作って単位をもらう。でも、そのときは、たいがい裏方をやってました。文学座に入ったのは、祖父がいたこともあるんですが、大学に加藤新吉先生がいらしたことが大きいです。イヨネスコの『犀』を翻訳している先生で、とても面白くて、家に遊びにいったり、天丼ご馳走になったりしていました。もっと先生と話したくて、文学座に入りました。同期でも年齢差が10歳ぐらいあるし、好みは違っても、芝居をやりたい、と真剣に思っている奴らばっかりで、すごく面白かったです。
――文学座で、演劇の基礎を叩き込まれたわけですね。
真面目にシェイクスピアや、泉鏡花をやってましたから。岸田國士を毎日毎日読んで、この台詞はどうなのか、討論したりする。岸田國士の『紙風船』を、学生の頃も、文学座でも、授業でやったんですね。男と女が、しゃべっているだけ。妻はちょっと機嫌が悪くて、夫が「鎌倉へ行こうか」と言いだして、電車で鎌倉へ遊びに行く空想なんかを話していると、庭に紙風船が入ってくる。それだけの戯曲なんですが、なんだか面白くて。何回も何回も読み返すうちに、「そうか、この女の人は、今日、生理なんだ!」って気がついたんです。夫に「風呂へでも行っておいで」といわれて、「今日はいいの」って断わるところがあるんですよ。気づいた瞬間、新吉先生に電話して、「新しい見解が出ました!」(笑)。脚本を読み込むことの面白さを初めて知りました。