- 2015.11.12
- インタビュー・対談
『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンに衝撃を受けて――戌井昭人さんインタビュー(後編)
「本の話」編集部
『俳優・亀岡拓次』『のろい男 俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)
ジャンル :
#小説
――それは発見ですね。
新吉先生も「そうか、戌井くん!」って興奮して。面白いからレポート書きなさいって言われたんですが、出したレポート、「妻」の字が全部「麦」になってました(笑)。
――『のろい男』の第1話に出てくる大女優・松村夏子のエピソードからは、『女の一生』の杉村春子さんを連想します。戌井さんは、杉村春子さんと接点がおありでしたか。
僕らが研究所に入ったときは、まだお元気でしたが、あまりにすごい方で、誰も近寄れなかった。あるとき、研究生みんなで飲んでいて、酔った勢いで、家に押しかけた。信濃町の文学座の後ろがご自宅だったんですね。そうしたら、玄関先まで出てきて、「あなたたち、がんばんなさいね」と声をかけてくださった。誠実に、本当にやさしく応えてくださって、感激しました。『牡丹燈籠』を三越劇場で見たのが最後でしたが、そのときもすばらしかったなあ……。北村和夫さんが『欲望という名の電車』で共演したときのエピソードが研究所で語り継がれていて、小説はそれを元にしました。
――松村夏子が亀岡に、映画俳優への道を示唆します。「小さな役があるんじゃなくて、小さな役者がいるだけだ」という言葉は、亀岡自身の信条になっていますね。
森本薫の書いた『女の一生』の台詞で、「自分で選んで歩き出した道ですもの、間違いだと知ったら自分で間違いでないようにしなくちゃ」という、文学座のモットーみたいになっている言葉があるんですね。「小さな役があるんじゃなくて、小さな役者がいるだけだ」という言葉も、杉村さんが言うから、重みがある。杉村さんの生きかたが、そのとおりだったと思うんですよね。僕らにはないすさまじさがあるんでしょうね、そこには。
――さて、横浜聡子監督、安田顕さん主演の映画「俳優 亀岡拓次」(2016年1月30日公開)が完成しました。ご感想を。
監督の作品は好きでしたし、安田顕さんがすばらしかった。初めて会ったとき、ああ、これが亀岡だ、ってぴったりきました。違うところはまったくなかった。
――戌井さんご自身も、出演されたとか。
『吐瀉怪優』の、ゲロ吐かれちゃう相手役で出たんですよね。安田さん、吐き方も上手でしたよ(笑)。撮影中、目がずっと死んでいたので、疲れているんだろうなあと思っていた。終了後、挨拶に行ったら、「ああ、どうも!」って爽やかな表情で声かけてくれて。ひどい二日酔いの設定だったから、ずっとそういう表情に作りこんでいたんですね。
――横浜監督はいかがでしたか。
監督は飄々とした感じ。他の映画もそうだけれど、へんてこな映画を撮るのがうまいし、それが面白いじゃないですか。へんな人を、そこばかりを強調せず、さらりと撮る。亀岡の変なところを強調するわけでもなく。それは自分が書きたいことだったので、原作とすごくマッチしていると思います。
「俳優 亀岡拓次」は2016年1月30日よりロードショー http://kametaku.com/
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