- 2015.11.11
- インタビュー・対談
脇役俳優・亀岡拓次には、自分も5割くらい入っていますね――戌井昭人さんインタビュー(前編)
「本の話」編集部
『俳優・亀岡拓次』『のろい男 俳優・亀岡拓次』 (戌井昭人 著)
ジャンル :
#小説
川端康成賞作家・戌井昭人さんがゆるーく描いた、脇役俳優の酒と仕事と恋の日々。『俳優・亀岡拓次』(文春文庫)、続編『のろい男――俳優・亀岡拓次』(単行本)が相次いで発売されます。新春の映画公開を前に、亀岡ってどんな男なのか、生みの親である戌井さんに聞いてきました。
――亀岡拓次は、映画の脇役に重宝される職業俳優。色黒で、目はいつも眠たそう。恋人なし、貯金なし、趣味はオートバイ。サウナと、居酒屋やスナックで飲むのが好き。……どことなく、戌井さんに似ていませんか?
はい、自分も5割くらい入っていますね。役者の友達の宇野(祥平)くんや、バイク好きのマンガ家・東陽片岡さんのエピソードも混ざっています。自分が行った場所の話を書いてみたかった。そいつは何者なんだ、ただの旅人じゃつまらない、じゃあ俳優にしてみよう、と。殿山泰司に、『三文役者』シリーズがあるじゃないですか。女と会ったり、放浪したりするエッセイ。それをかなり意識しました。
――亀岡は惚れっぽいのに独身です。モテそうなのに……。
そこにどうしようもなさを背負わせたくて。あと、出会いが自由じゃないですか。いかがわしいことをしても、後ろめたさがなく、すっきりさせたいな、と思っていました。恋愛にハマらない、かろやかな間抜けにしたかったので。
――そんな自由さの象徴が、バイクです。愛車は『俳優・亀岡拓次』では中古のカワサキGPZ900R。『のろい男』の最後では、新車ZRX1200。お好きなバイクですか。
GPZは僕が乗りたいな、ほしいなと思っていたバイク。ツーリングに行ける、ゆったり乗れる、大人の大きいバイクです。カワサキがいいな、と思ってました。
――亀岡はいい加減なようでいて、とてもまっとうな倫理観、ポリシーを持っています。『のろい男』で、亀岡のウエストのサイズを測っては、プロフィールの数字と違うとイヤミを言う衣裳のおばさんにぶつける怒りも、まっとうですよね。
ギチギチになって、自分のスタイルを押し付ける人っているじゃないですか。「職人ぶる」人。それが苦手なんでしょうね。本当に素晴らしい人には、余裕がある。亀岡自身もそうだから、余裕がない人にガンガン来られると、腹が立っちゃうんです。
――余裕のある人とそうでない人。違いは、どこにあるんでしょう。
本人の安定感ですよね。亀岡がおっさんになってもツーリングしているのは、東陽片岡さんがモデルなんです。東陽さんって、訳わかんないマンガも描いておられますけど、人間としての安定感がある。自分のことをちゃんとわかっていて、浮わついたりしない。亀岡にも、ふらふらしているようでも、実はちゃんと安定している人の感じを出したいなと思いました。僕自身もそうありたいですね。
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