「たけし」と「ひとし」、ふたりの天才について
「同年代のライバルっすかぁ……まぁ松井秀喜くらいかなぁぁ、でも年収ならとっくに抜いているし、ヤンキースだって、なんなら買っちゃろうか! と思ってますねぇ」(堀江貴文)
「とっておきの話をお教えしましょう! レーガン、親父ブッシュ、クリントン、息子ブッシュ、この4人の大統領は、ワタシの顧客です!」(湯浅卓)
「オレが、あのロックフェラーセンターを買った男なのね!」(苫米地英人)
ホラのような話を聞き出すばかりではない。博士は、マニアックな人物にもスポットライトを当てて、その滋味をしっかりと引き出してみせる。
「ったく……小池栄子に、亘(わたる)を寝取られましたよ!」(三又又三)
「じゃあ、俺、ビルのガラス拭きのバイトがあるんで、先に帰らせていただきます」(掟ポルシェ)
さらには、ミュージシャン、キャスター、怪談語り、読書家といった、一芸に秀でた「プロ」に迫り、その仕事をしてゆく中での「仮面の下の貌」を暴いてみせる。
「世界は、遊びとはいえない殺し合いのようなキャッチボールなんだ」(大槻ケンヂ)
「……博士ぇ、オレはね、『人より心が冷たい』んだよ」(古舘伊知郎)
「霊って日本では幽霊って言うけど、海外ではね、エネルギー、いわゆる、力って呼んでるんです。ワタシね、15年前にある事があって、それを見てみたいんです……」(稲川淳二)
「俺の濫読の秘訣は、とにかく眠らないことだね」(宮崎哲弥)
このように、水道橋博士の、自分の同業者であるタレント、芸人を眺めるまなざしは、とても「暖かく」そして「優しい」。
それでは、周りの人たちを生き生きと描き出すことに長けている博士は、いったい自分のことはどのように自己分析しているのだろうか?
そのことが一番よく表れているのが、同じ世代の漫才師として最大限にリスペクトしている松本人志と、自分の師匠である北野武への特別なこだわりだ。
全6回にわたる『藝人春秋』だが、最終話のタイトルは、「たけしとひとしを巡る30年」である。松本人志と北野武、ふたりの「天才」を傍らからずっと眺めてきた思いを、「お笑い」と「映画」、ふたつの切り口によりフォーカスを精密に合わせる。
「もし、今、映画を撮ってもテレビのように評価されなかったら、どないしたらええんやろうね?」(松本人志)
「映画って自分の身に着いたことしか出来ない」(北野武)
ふたりの言葉を引き出しながら、博士はその意味と内容を自らに投影して、心を震わせているかのようである。言葉の「魂」を、自分の中に入れていくことによる感動、そして電子書籍である本書のようなプロダクツによって、他者に伝えてゆく興奮によって。
博士はこうも語っている。 「自分は『ルポライター芸人』なんです」と。
『藝人春秋』は、その志の純粋さが溢れている作品である。
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