――確かにこの作品集で描かれている闇は、日本独特のもののように思えました。
日本の闇は、なにかじっとり身体にまとわりつくようなじめじめした湿度の高いもののように思います。また日本の闇は貧しさと密接に結びついているのだけれど、決して単純に排除されていないと思います。
例えば口減らしの伝承には、死んでゆく誰かは生き残った誰かに自分を委ねる、誰かを活かすために死ぬのであって、私のぶんも生きてくださいという気持ちがある。決して悲しいだけの話ではないんです。それは水子という名前をつけることによって、正体ができたような錯覚をおぼえることとは違います。そうして理解し浄化してしまうわけではない。
――生れてこなかった子供の記憶を引き継いでいると考えるとかなり怖いですね。そうした怖さや闇がいまは排除されつつあるように思いますが。
いまは闇が好まれないので蓋をして見えにくくしたりないもののようにしていますが、まだまだ闇が語り継がれていたり、しっかり存在している土地はあります。
でも最近、小説のなかからも闇がどんどん追い出されていて残念に思います。押し入れのなかの薄暗い感じは日本人の原風景のひとつだと思うんですけど(笑)。
――子供や子供の頃の記憶にまつわるお話が多くなったのはなぜでしょうか。
それも過去と現在の結びつきを強く意識した結果だと思います。命の連続性は家族という形でもっとも強く繋がっているわけですから。また子供の感受性は得体のしれないものをすんなりうけいれる柔軟性があります。大人はそれを理性でなかったことにする。その葛藤もこの短集のテーマになっています。
――現代を舞台に小説を書かれることの多い角田さんにとってこれは異色の作品ですね。
いつの話かわからない小説を書くということは私にとって大きな挑戦でした。特定の時代に舞台を設定すれば、その時代の風俗を入れられるしそれらしく書くことは難しくありません。逆に言葉使いひとつとっても、時代を特定されないように書くことはたいへんです。古めかしくするとわざとらしいし気を抜くといまの話とどこが違うのかわからなくなってしまう。正直、距離のとり方がわからなくて、自分に書けるとは思えなかったんです。でも苦手なことから逃げていても仕方がないので(笑)。
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