- 2013.01.10
- インタビュー・対談
[刊行記念対談]
島田雅彦×ヤマザキマリ
美女ほど不幸の蜜を吸う? 『傾国子女』白草千春的・女の生き方
「本の話」編集部
『傾国子女』(島田雅彦 著)
ジャンル :
#小説
若い女の子よりも、出汁のきいたおじさん
――ヤマザキさんの作品には、若い女の子があまり出てきません。千春のイメージ化の話につながりますが、ヤマザキさんにとって女性を描くことは男性を描くよりも難しいんでしょうか。
ヤマザキ 基本的に、若い女の子はめったに描きません。特に興味があるわけではないので注意して見ていませんし、海外生活が長いので、女性の美の基準値がほかの人たちと違うんだと思います。
島田 日本でも最近、アラフィフで色気勝負したり、実際年をとってもきれいな人が多いけど、ヨーロッパはもっとアダルトな世界。熟成したところでようやく一人前だからね。
ヤマザキ アンチエイジングが必要ない世界。年をとってできたシワをいいものとして見ようという風潮があります。そういう環境にずっといるから、日本に来ると日本のかわいらしい女の子との向き合い方がすごく難しい。体を描くのは好きだけど、顔は描けないです。顔に本性が見えてこないし、とらえどころがないから。
島田 日本のアニメやコミックに出てくる女の子って、作品も作者も違うのにみんなハンコみたいに同じになっちゃうじゃない。
ヤマザキ 萌え系の顔を描けと言われたら、いくらでも出来るけど、ほんとにハンコみたいになって、あれを描く楽しみが見いだせないんです。私がおじさんを描くのが好きなのは、シワとか表情が味わい深いから。力が自然に入ってしまう。
島田 確かに『テルマエ・ロマエ』も『ジャコモ・フォスカリ』もおじさんの描き込み方がすごい。
ヤマザキ 前に島田さんに安い居酒屋へ連れていってもらったとき、私の好みの出汁のきいたおじさんがいっぱい並んでいて、ムラムラしました(笑)。
――この『傾国子女』の主要登場人物を絵にするにあたって、ヤマザキさんの力が最も入ったのは……?
ヤマザキ それはもう、「檀おじさま」ですね(笑)。読んでいて真っ先にイメージがわきました。私はガッシリと貫禄のあるイメージだったけど、島田さんはもっとスマートな感じ、と前におっしゃってましたね。
島田 いや、どちらもありだと思いますよ。女性陣を女優にたとえるなら、男性は文豪つながりでどうかな。「檀おじさま」はまさに谷崎のイメージ。
ヤマザキ なるほど! だんだん落ちぶれていく千春の父親や、退廃的な般若先生も、ぴったりの文豪がいそう(笑)。
島田 逆に自信満々の「小平君」や「織田信孝」は、いかにも政治家っぽい人……。やっぱりヤマザキさんは、アクの強いおじさんキャラを描くときが、一番幸せそうだね(笑)。
ヤマザキ いえいえ。「千春」も島田さんのお好み通りの絶世の美女に描かせていただきます(笑)。
――『傾国子女』は小説とイラスト両方で2倍楽しめる作品ですね。今日はありがとうございました。
(この対談のロング・バージョンが『文學界』2013年1月号に掲載されています。)
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