清七はただの町人ではなくて、もともと武家の出だけれど父が女中に産ませた子という設定です。実家と清七との間には確執があり、これから武士として生きていくか、それとも町人になるかと清七が悩みながら成長していく、という問題も、シリーズを通して大きな軸になっていく予定です。
また清七の仲間の一人、与一郎は地方の豪農の長男坊で、歌川広重の弟子だったこともあり、江戸でふらふらしている。もう一人の小平次は元巾着切りで今は足を洗っているのですが、過去のつながりで闇の世界や奉行所とも通じている。他にも清七に絵双紙屋の看板を託す紀の字屋藤兵衛、藤兵衛の世話をしているおゆりなど、それぞれに背負っている問題があって、様々な事件との関わりを通じて少しずつ前に進んで、最終的に彼らがどういう結末を迎えるかというのが読みどころの一つだと思います。
他の作品では一つの事件が解決したらそこでその話は終わるようにしていますが、このシリーズは一話完結をしながら全体的に登場人物たちの成長小説の側面をもつという、随分欲張った設定ですので、最初に全体像を決める上で時間がかかりました。
私はシナリオ作家を経て、小説の世界に入りました。脚本の場合は、登場人物と時代を決めて、台詞を書けば、人物は役者が膨らませてくれるし、時代考証の方がいて、髪型や着物などをアドバイスしてくれるわけです。ところが小説の場合は、すべての世界観を自分で作らなくてはならない。台詞と会話は同じでもいわゆるト書きと地の文は全然違います。脚本なら〈頃は夏。向うから○○が歩いてくる〉で済むけれど、小説はどんな格好でどんな歩き方かまで描写しないと読者に伝わらないですから。
今回の〈切り絵図屋清七〉は第1話「春塵」が与一郎、第2話「紅梅坂」が清七、第3話「ふたり静」が小平次の話になりました。以降のシリーズでも、必ず1話は実家との確執の中で苦しみながら変わっていく清七を描いていこうと思っています。清七の父・長谷半左衛門は勘定組頭であり、御府内の作事や普請に関する費用などを検査視察するのも役目の一つ。そこから何らかの事件が起こる可能性もありますね。
1冊目は予定よりも随分お待たせしてしまったのですが、2冊目は秋頃には刊行できると思います。今考えているのは、庄屋である与一郎の父親が息子を連れ戻しに江戸に出てきて、大騒動が起こるというお話です。読者の方々に応援していただけるシリーズになるように祈っています。
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