若木ひとえさん(文教堂北野店)
読み終えて、二日ほどはこの物語に夢中になっていたことを思い知らされました。あちこちに飛び回る物語にくらいつくように読んでいたら、途中からコロッケが主人公なのではないかと思えてきて。ここではコロッケですが、他のものに例えることもきっと可能なのでしょう。ですが、自分のコロッケが大好きな私としては(真実のようにうまくは作れません)コロッケしか人を幸せにする食べ物が思い浮かびません。たくさん作り、次の日にはパンにはさんで食べる。うわーっ自分といっしょだ! と。読み終えた直後のため、興奮してます。
「ついていらっしゃい」とホリー先生に導かれるまま、読みました。書くとはなんだろう。その時とはいったいいつなんだろう。ホリー先生は選ぶことなどしないでしょう。きっと潮が満ちるように、やってくるもの。引き寄せられるように、書くのでしょうね。文字の抜け殻でもいいから、ホリー先生の原稿をみてみたかった。
本当にありがとうございました。幸せなひとときでした。
久田かおりさん(精文館書店中島新町店)
「物語る」ということ。それは人生そのものなのだろう。自分と、自分と関わるすべての人の人生そのもの。一度とらわれるとそこから逃れることはできない。物語に殉ずるしかなくなる。そしてそれはきちんと死ぬことへとつながる。書くことにとらわれた人の、それは性というか業というか。この物語を紡いだ大島さんも、そういう「書く」ことにとらわれた一人なのは間違いない。だってこんなへんてこりんな物語を書いてしまうのだから。
このへんてこりんな物語を読みながら、私はチャーチルになりたい、と思った。チャーチルになってホリーさんと一緒に書くことにとらわれて生きてみたい、と。そしていつか「あなたの本当の人生はね…」と語られたい。でもそのときが来るまえにコロッケを作らなきゃ。丁寧に丁寧に。人生を紡ぐように。物語を描くように。誰かの枯れかけた物語る力をよみがえらせる魔法のコロッケを作らなきゃ。
加藤寛司さん(ブックガーデン佐沼かのげん)
上手に表現できないのですが、なんというか読んでいると私がいる現実世界と物語との境目がなくなっていくような気がしました。気がつくと私は森和木ホリーになっていたりチャーチルになっていたり宇城になっていたり……不思議な感覚に包まれているうちに読み終えてしまいました。なんでしょう、この魅力は(笑)。
また、本を書く、物語を創造するということが好きな人、または目指している人にとって中々のバイブルになるような気がします。私も時々小説家の真似ごとのようなことをしますが、まったく何もストーリーが浮かばない時もあれば、書き始めると勝手にそれぞれの人物が動き回ってくれたり自分でも予想していなかったハプニングが起きたりする時があります。そういう時は時間が経つのを忘れてどんどん書くことができます。そして大半は途中でパタンと流れが消えてお蔵入りです(笑)。あれこれと悩まずに一度頭をリセットして自然に浮かぶのを待つのも大切なのでしょうか。森和木氏の家にある白い部屋はそういった場所なのでは……と思い少しだけ閉じこもってみたくなりました。
登場人物みんなが何かに流されるように流れるままに人生を進めていきます。抵抗せずに、あるがままに、流れ着くところに流れ着く。そういった自然な生き方ができる人達だと思いました。また文中にある「昂奮」という字のチョイスが素晴らしいです。たしかに彼女らにとっては「興奮」よりも「昂奮」であるし、この文字の違いだけで彼女らが心に秘めている物が伝わってきました。
さて、私の本当の人生はどうなんでしょう。今の書店員も悪くありませんが流れるままに生きているうちに違う人生に辿り着くかもしれません。人生はなるようになるし、ならないときはならない。人生の壁にぶつかった時、もう駄目だと思った時、この本を読めばきっと心が楽になるはずです。
素敵な物語でした。ありがとうございました。この物語を少しでも多くの方々にお届けできるように書店員として努めていきたいと思います。
p.s 後半はコロッケが食べたくなってしかたありませんでした。
後藤良子さん(明林堂書店日出店)
読み終わったときに、好きすぎて泣いてしまいました。
ストーリーは賑やかにあちこち寄り道したり落書きしたりしながら進んでいくようでした。それがラストに近づくころには、静けさをも湛えた美しくも未完の絵が浮かんできました。その絵は作者と読者が共に描きつないでゆくもの。そして物語は命を持つのだと思います。また作家大島真寿美さんの頭の中をちょっとだけ覗かせてもらったような気もして愉快でした。
実は読み終わった後、栗本薫さんのことを考えました。グイン・サーガという長い長い物語の途中で栗本さんは亡くなられましたが、読者でもあった別の作家さんの手で再び作品が動き始めました。それを待っていた読者もいました。まさに作者と読者が一緒に作品を作っていると実感します。
この物語を送り出していただいて本当にありがとうございます。
櫻井美怜さん(成田本店みなと高台店)
私の本当の人生とは一体どれなのか。私にも、誰かが神のお告げのようにそう囁いてくれないものだろうか。
幼いあの日から私はずっと自分の居場所を探し続け人生の答えを求め続けている。求めているくせに、それは自分で掴むものではなく他人から与えられるものだとばかり思い込んで生きてきた。だって現にこうしてホリーさんのように啓示をくれる人が世の中にはいるのだ。その人自身が、どうしようもなくダメな大人でも、人生の核を与えてくれる人が必要だ。私にはホリーさんが必要だ。けれどその運命から逃れたいとも思っている。
ぎゅうぎゅうに縛られているはずの固結びの運命の輪から、抜け出したいという願望が猫の形をしてするりつるりとすり抜けてこちら側へやってくる。チャーチルもまた、私自身だ。猫が毛繕いをしているうちに、己の毛が腹の中にたまるように、物語を紡ぐうちに心の底にたまってしまった何かをオエッと吐き出したのが、この物語だったのだろう。その吐き出した毛の中にすらこうしてまた新しい物語がねっちょりと潜んでいる。
大島さんが物語る人の証であるように思う。
三桝裕子さん(フタバ図書TERAワンダーシティ店)
夜中の12時から読み始めたのですが、止まらなくなってしまい、寝不足となりました。登場人物が自分のすぐ隣で心のうちを暴露しているようで、実在しているんじゃないか? と何度も思ってしまいました。会話に括弧がなくなっていくところで何度も笑いました。
誰もが一度は考える、「わたしの本当の人生は」というテーマ。様々な分岐点で立ち止まり、究極の選択をしなければならない。そして、後から悩む。何度も繰り返して、積み重ねていくことが生きていくこと。とてもつらいです。でも、あのホリー先生だったら何て言ったのかと考えると、少し救われる気がします。
ここ数ヶ月で様々な究極の選択をしなければならず、悩むことが多かったのですが、読み終わった後、この人生でよかったと思えました。自分がこんなに前向きになることはほぼなかったのですが、とにかくよかったのだと思えました。
これからも大島先生の小説を楽しみに書店員を続けていこうと思います。そして、多くのお客様にも提案できればと思います。
髙木善祥さん(今井書店吉成店)
書くことは生きること。書かなければ生きていられなかった。それゆえに書けなくなった、ベストセラー作家。その作家の一言で、それまでと全く違う人生を歩みはじめた。いつしか代筆さえするようになった秘書。熱烈なファンだった。圧倒的な影響の下でデビューするも、次が書けなかった。編集者の思い付きで、その作家に弟子入りすることになった新人作家。
三人の女性の、「書くこと」と「書かなかったこと」を巡る物語。読むことは生きること。この物語は、あなたに読まれることを待っている。
スラスラと読めるのに、なぜか奇妙な味わいの読後感。物語の復活を願い、失われた時を取り戻すのに必要なのは、マドレーヌじゃなくてコロッケ。読み終えたあなたは、必ずコロッケが食べたくなる、いや、作りたくなる。
鈴木康之さん(大杉書店市川店)
ファンタジックなとても不思議なお話でした。ホリー先生、國崎真実、宇城さん、鏡味さん、簑嶋さんとそれぞれの登場人物がちょっと変わっていておもしろいキャラクターでした。特にホリー先生は謎だらけで興味津々でした。印象に残った言葉がいくつかありました。
「女衒で娼館に売られてきた田舎娘みたい」
「あの部屋を藁部屋と呼ぶ。溺れる者は藁をもつかむの藁だ」
「なんせ糟糠の夫だった」
「ローズウォーターさんあなたに神のお恵みを」「そっちじゃない」
「やせて繊細なモデルみたいな女と筋骨隆々の男が同居しているみたいなキッチンだといつも思う」
「原稿はふたりの子供だったのかもしれない、万年筆から生まれたふたりの子供」
「正鵠を射る一言に胸を撃ち抜かれる」
本当に不思議なセリフだらけでした。揚げたてのコロッケがおいしそうすぎて食べてみたい。「錦船」のお話が読みたい、チャーチルがどんな猫だったか知りたい。「あなたの本当の人生は」はファンタジー小説の傑作だと思う。
そしてあなたの本当の人生はと聞かれたら書店員ですと応えます。
E・Hさん(廣文館新幹線店)
いや、これは! 大島さん、ずるくないっすか? 心が赴くまま書きたいものを書いたらそれがとても素敵なお話になっておもわず自分の心を覗きこませるような文学にもなっていて最終的にはハッピーなファンタジーになっちゃうだなんて!
大島さんはこの物語、ちゃんと着地点をある程度見据えてからスタートさせたのだろうか? いや、どうもそんな感じはしない。だって、出だしを読んでまさかこんな展開になるなんて想像もできなかった。という展開になったとおもいきや、また話は違う方向に転がる。それはあたかも、まるで作中に出てくる作家「森和木ホリー」のように自由で奔放で何事にもとらわれない。
迷走していくこの物語の背骨をグッと掴んで真っ直ぐに立たせる要素が突然に現れる。それが「コロッケ」だ。なんなんでしょうね、この物語におけるコロッケの異常な存在感。とても一言であらわせない凄さがあるのがこの小説なんだけど最終的にこの小説を読んでなにか一言発するとするならば「コロッケ」としか言いようがない。
息をするように物語を紡ぐ作家さんもいるのだろうけど大島さんはきっと、頭のなかに降りてきた妄想をそのまま紙に降ろしたら素敵な物語が生まれているんだろう。すげーです。天才というか才能というか、努力なのか、素晴らしいです。
この小説を読んだ後で、ここがどうとか、あそこがこうとか普通の感想を書くのが難しいなって思いました。なんていうか、読んでいる間ずっと面白かったし幸せだった。最初っから最後まで、思いがけないコースをたどりつつも読んでいてずっと面白かったです。なんとなく、大島さんの頭の中がちらっと覗けたような気もしたしおもわず自分の立っている場所を確認したり振り返ったり。すごく不思議な読書体験でした。
こんな不思議な本は読んだことないですよ。ものっすごい、楽しくて幸せな読書でした。最高でした!
山本亮さん(渋谷大盛堂書店)
小説家の白石一文氏がTwitterで「本当に面白い小説とは何か、を考えながら書く。“面白い、面白い”と読者が簡単にわくわくしないもの。甘いお菓子のようではなく、深く味わえる料理のようなもの。一度入ると、なかなか抜け出せないもの。どこにでもありそうだけど、実際はないもの。つまり人の真実に触れた恐ろしいもの。」(2014年7月22日)とツイートされている。一連の白石作品の本質を自ら突いているが、思わず納得の言葉だ。本書の読中、色々考えながら読み進めていたが、読後、思わず唸ってしまった。単純に面白いなどという感想が出てこない、不思議な感じ。まさしく「一度入ると、なかなか抜け出せない」物語ではないだろうか。
読者から圧倒的な支持を得ているファンタジー小説『錦船』シリーズを持つ活動停止中の伝説の小説家・森和木ホリー、ホリーが全てと言っていいくらい実生活を委ねている秘書・宇城圭子、担当編集者の鏡味、そして、鏡味が世話をする新人小説家・國崎真実を中心に、ホリーの不可思議な豪邸(使い勝手が悪く、やたら大きな風呂がある)へ國崎が弟子として転がり込むという形で話は始まる。高齢のホリーによって國崎が、『錦船』シリーズの鍵である猫「チャーチル」に擬せられたり、宇城のしっかりした仕切り、鏡味のとぼけた味わい(もちろん、シリーズの続編を編集者として熱望している)、そして登場人物を巡る他の人達の含みを持たせた存在感。グリム童話を読んでいる様だが、決して浮世離れしている内容ではない。そして、ホリーは昔、地方都市の公務員として勤務していた宇城に「あなたの本当の人生は?」と問いかける。
ホリー邸の白一色の部屋、真っ白な原稿用紙、海の向こうに浮かぶ船。皆が魅了されている「錦の船」に登場人物皆が乗船している訳ではない。それぞれが持つ事情に、個人的には、國崎がある文中で想う「夢の縁(へり)を共に歩む感じ」という言葉がしっくりきた。そう、夢の周辺にいるホリーを含めた彼女達が、ストーリーの核へいかにしてアプローチをしていくか、そこが本書の肝ではないだろうか。そして、「本当の人生」の答えを見つけ出していくその過程は、例えば國崎が何よりも得意としているコロッケ作り、周囲の人間達が食べるという直結した欲が本書の一つの軸となっていると言って良いだろう。何ていうことはない単純な行動が、本書の推進力となり、また不思議な深みを出している。そして、ホリーの別れた夫の存在も忘れてはいけないキーパーソンだ。
正直言って、まだ本作に対して明確な答えが見つかっていない。もう一度再読してみないといけないだろう。自分も今、「錦の船」に乗ろうかどうか迷っているところだ。その上で「人の真実に触れた恐ろしいもの」を知ることが出来る様な気がする。
山崎蓮代さん(紀伊國屋書店名古屋空港店)
チャーチル、チャーチル? その舳先から何が見えるの?
チャーチルって政治家のおじちゃんを連想しちゃうと台無しですが、魅力的なコ。黒猫に魔法はお似合いのアイテム、そこかしこに微小ながら確実に魔法がかけられてる。「人を殺してる」と言われた宇城さん、その言葉に衝撃を受けたのは読者だけではなくその台詞を発したホリー先生であることがあまりにも皮肉。『オイディプス王』を連想してしまった。まさに「言葉は縛る」、恐ろしい。
ホリー先生、國崎真実、そして宇城さん。書くことに囚われた人たちと書くヒトに囚われた人たち。そんなこんなを混ぜて絡めてジュッと揚げて。『あなたの本当の人生は』きっとひとつひとつ形も大きさもバラバラな、さぞかし滋味のあるコロッケなんだろう。
ねこ村さん(TSUTAYA寝屋川駅前店)
私が今後の人生でコロッケを口にして、一口齧り「あ~サクサク!」と思うたびにこの小説のことを思い出すでしょう。そして、この小説によって「わたしの本当の人生は」と何度も考え込んだことも思い出すでしょう。
「自分の本当の人生」について、わたし、もしくはあなたが自分の立場で人生を、本当の人生をふと考えてしまったとき、そのときからきっと今までの人生が、複数のスポットライトを別角度からあてたような違う影を帯びる。「あ、しまったー。考えがまとまらない、答えがいつまでも出ない問題だ、これ」と考え始めてしまったが最後、とまらない。やってくれるわー大島さんー。
読み手の人生における「本当の人生」もふんだんに考え込ませ悩ませたうえ、このお話はグングン進む。物語を生み出す彼女の喜び、悲しみ、光と陰。希望も絶望もすべて詰まってる。神がかってる、この小説。つまってるのは、このコロッケ。くわえてるのは、猫。黒猫。
「本当の人生」「コロッケ」「黒猫」「船」収拾つかなそうなワードばかりなのに、大島真寿美さんはすべて風呂敷につつむ。それがこんなに幸せな気持ちの風呂敷だとは。魔法使いか何かかもしれない。
山本明広さん(アマノ有玉店)
大島さんの作品の中でこれまでにない世界観にびっくりしました。本能のままに書くことにまつわる作品を書くとこういうことになるのでしょうか。
幼いころ伯父の言葉を耳にして、人それぞれに、ここではないどこかに本当の人生があるのだろうかという疑問を持った森和木ホリーは「あなたの本当の人生は?」と周囲に問いながら、本当は自分自身のそれを一番知りたかったのかもしれない。宇城圭子はきっと森和木ホリーになりたかったのだろうし、國崎真実は森和木ホリーにあこがれてはいたけれど、チャーチルである真実は森和木ホリーにはなれない……。
読み終わった時に、人それぞれの人生は自分自身の力だけでなく、共に歩む誰かの力によって作られていくものなんだろう、そんなことも考えました。
森口俊則さん(ハイパーブックス茨木店)
眠っているあいだに見た夢について、起きたことのおおまかなストーリーは憶えているのに全体の輪郭がぼんやりしている、ということがよくあります。この物語は、誰か(ひとりではない)の夢を垣間見ているようでした。全編にただよう不思議な空気感、あるようで無いようであるようなストーリー。(この小説を、どんな話だと聞かれると説明にとても困るでしょう)序盤や中盤で予想する展開をことごとく裏切られ着地点が全く見えない……!
途中から登場する重要アイテム・コロッケの存在感たるや。ありふれてるけど美味しくてみんな大好き、それがコロッケ。ささやかな幸せを象徴するものとして、この不思議な小説と読み手の世界を近づけるアイテムとして重要な役割を果たしてくれました。
読み終えて確かにいえるのは、ホリーさんも真実も、宇城も鏡味も冬ちゃんでさえも、登場人物それぞれがちゃんと自分の人生を自分で選んだということ。「本当の人生」だったかどうかなんて、けっきょく自分で決めるものだということ。全体的にふわふわしたおとぎ話のような物語から、この強いメッセージをいつの間にか自然に感じとっていたのでした。
そして、物語を書くということについて小説の中でさまざまな人物から語られるそれは、作者・大島さんの小説を書くということに対しての態度をきっと表しているのだろうとも思いました。小説家という頭の中・心の中を垣間見られた気がいたします。
内田剛さん(三省堂書店神保町本店)
油断して読み始めたら吃驚仰天。唖然茫然。これは著者からの挑戦状。無限の魅力に満ちたただならぬ小説だ。
緊張と弛緩、充足と脱力。とらえどころのない問答無用の面白さ。クセになるテンポ、ユーモラスなキャラクター、ミステリアスなストーリー。妄想と想像を重ね合わせた作家の想像力は何と自由で大らかなことか。湧き上がる感情、めくるめく日常。まさに物語の源泉と迷宮がここにある。
大島真寿美ワールドに絶対服従あるのみ。心して読むべし。
川俣めぐみさん(紀伊國屋書店横浜店)
自分のいまの人生が誰かの書いた物語だったら楽しいかな? って考えたことがある。きっとその物語はあんまり面白くないなぁ。悲しいけれど。「物語」はどこから来てどこへ行くのか…? もちろん作家さんが描いているのはわかっているけれど、それだけじゃないかもと思ってしまう物語がある。そんな物語を切実に待ってしまう。だからこの不思議な物語がするりと届いて、なんだか納得してしまいました。
あぁ、それにしてもコロッケが食べたい!
鶴岡寛子さん(三省堂書店京都駅店)
なんとも味わい深い奇妙な物語でした!(誉めてます!)
なんて言ったら良いのでしょう。
あったかもしれない人生、本当の人生、だけど、コロッケをあげる人生も物を書く人生、何かを作るということでは同じなのかなと思ったり……。
それはもう生産性の問題でしかなくて、何を作るかは瑣末なのかとか。
そして作家さんの小説に対する思い、(思いと言うのも違うような)心構え、ありようなんてのが漏れ出ててなんだかうまくまとまりませんが面白かったです。
ありがとうございました!
佐伯敦子さん(有隣堂伊勢佐木町本店)
大島作品は、独特ですね。群像劇のようでいて、読むとなぜだかそこには救いがあり、希望があり、そして人生があります。静かに過ぎていく時間の中に必ず老いがあり、ああこうして人生は過ぎていくのだと感じずにはいられません。
コバルト小説が大好きで、一山当てようとしていた自分にはホリーさんが、なんだか魅力的でした。それにコロッケが、必ず食べたくなる! あなたの本当の人生は。自分がホリーさんにそう言われているようで、考えてしまいました。
人生は流れていく。その静かな美しさを大島先生は、物語の中にうまく織り込んでくれているような気がしました。読んでよかったです。
鈴木正太郎さん(TSUTAYA香里園店)
「あなたの本当の人生は?」ホリー先生に尋ねられたらどうしよう。本当の人生なんてあるのだろうか。
今までの人生で幾つかの分岐点は覚えている。あの時の決断が違っていたら今と全く違った人生を歩んでいたかもしれない。逆に、今の人生は何かに導かれてこうなったのかもしれない。やり直しがきくわけではないから幾らでも想像は膨らむ。森和木ホリーも宇城圭子も國崎真実も別の人生を思いつつ、それでも今の人生もまんざらではない感じで素敵だ。数奇な運命を辿るとそう感じるのかもしれない。
今生きている自分が、本当の人生であってほしいなと思った。
竹田勇生さん(紀伊國屋書店新宿南店)
正直、最初の部分は少しだるいかな、という気もしましたがそれは単に疲れていただけなのかもしれません(笑)。というか、すべて読み終えてみると、何だかそれも小説の出来上がりの一過程という気もするのです。この作品は大島さん、ホリー先生、宇城さん、真実というみんなが書いているものだから、エンジンのかかり具合というか。
よく小説家の方が、「物語は登場人物が自由に動き出すのを待っている」的なことを仰いますが、この作品ほどそれを感じたものはありません。弟子になるはずの真実がコロッケ揚げはじめて、宇城さんが物書きとしての欲求を爆発させだして、ホリー先生が「物語る」ということに対してもう一度向き合ってもう、みんなすごい自由(笑)。
チャーチルが現実と小説を行ったり来たりするのには、鳥肌が立ちました。チャーチルが!チャーチルがっ!って叫んでしまいそうでした。ファンタジー小説がそれほど得意ではない僕には、自分でも意外でしたが、どういう類の物語であれ、それは簑嶋さんの言が答えですね。「物語がほしくてほしくてたまらない。ホモ・サピエンスの宿業」という。
白い部屋でのホリー先生は想像するだけでも恐怖を感じるし、そこで何も見つけられなかった宇城さんの持たざる者の憂いとか、小説を書くという、空想との命のやり取りと言っても過言でない行為については真に迫るものがあったし、途中からはもうひたすらコロッケのことを想像しておなかが空くという何とも困った作品ですが(笑)、本当に読ませて頂いて良かったです。
チャーチルもニキもシキも、「錦船」シリーズなんて誰も知らない筈なのにこの作品を読んだ読者はきっとそれらを懐かしく思い出せる。なぜならそれは、我々の遠い先祖がどこかで読んだ太古の物語だから。そんな気が今はしています。
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