「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」
ロシアの文豪トルストイのアンナ・カレーニナの一節である。マイケル・ルイスによるユーロ危機の真相を追った本書『ブーメラン』を読み終えて、僕はトルストイのこの言葉を思い出さずにはいられなかった。
『ブーメラン』は、ルイス氏が2010年に出版した世界的なベストセラーである『世紀の空売り』の続編ともいうべき作品である。前作は、サブプライム住宅ローン市場の崩壊(要するにローンで家を買った多くのアメリカ人が次々と借金を踏み倒した)に端を発する世界同時金融危機の中で、住宅ローン仕組み債を空売りして巨万の富を得たヘッジファンドを追った。
住宅ローン仕組み債は、さまざまな金融機関に保有されていた。そのためアメリカの住宅バブルの崩壊が、瞬く間に世界中に伝播してしまう。とりわけ住宅ローン仕組み債を大量に抱えていたのは、欧州の銀行であり、それがユーロ危機を引き起こしてゆく。アメリカで庶民が住宅ローンを踏み倒したことが、グローバル化し複雑に絡み合った金融市場を通して、欧州の金融システムを崩壊の寸前まで追い詰めたのだ。そして、欧州の危機が、グローバル経済を通してアメリカにブーメランのように戻ってきて、アメリカの様々な自治体の財政を破綻させつつある。本書の『ブーメラン』という題名には、このような意味が込められているのだ。
本書は、住宅ローン仕組み債の空売りで大儲けしたヘッジファンドが、今度は日本とフランスの国債のデフォルトに賭けているところから幕を開ける。次は、いよいよ国家の破綻に賭けるというわけだ。実際に、欧州の小国は次々と事実上の国家破綻を経験している。
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