──小社からは『妻恋坂』以来、実に七年ぶりとなる短篇集です。本書には、ここ数年「オール讀物」で発表なさった短篇のほかに、デビュー当時の短篇も二本収録されています。当時の短篇を読み返しての感想を伺えますか。
北原 ほんとに下手だなぁと思いました。自分の作品だから、書きたかったことはわかるんですけど、表現のしかたがなってないですね。
──今回の収録にあたって、全面改稿なさいました。
北原 書きたかったことは、そのままにしてありますが、文章ですね、変えたのは。いくらかでも皆さんに伝わるようになったと思っています。
──北原さんは、昭和四十四年に第一回新潮新人賞でデビューなさっています。本書に収録されている「風鈴の鳴りやむ時」は昭和四十六年に「小説新潮」で発表されたものです。この話は、市井の男女が主人公ですが、人情話というよりも、人間の心理を見つめた作品で、男女に漂う虚無感に圧倒されます。
北原 「小説新潮」での三作目だと思います。「小説新潮」の担当者だった川野黎子(かわのれいこ)さんには、「あの作品まではこのまま伸びていくと思っていたのに、ここからおかしくなった」と後(のち)に言われました。全くそのとおりなんです(笑)。
──新潮新人賞受賞作「ママは知らなかったのよ」は現代小説です。デビューの頃は、時代小説と両方お書きになっていたんですね。
北原 文芸誌「新潮」でデビューしたのですが、私は「一に井伏、二に鱒二、三、四がなくて、五に井伏鱒二」というくらい、井伏鱒二に憧れていました。ことに「さざなみ軍記」が好きでした。ですから、純文学誌でデビューして、ああいう時代小説を書きたかったんです。でも、私にできるわけがない。それで、おかしくなっちゃったのね(笑)。
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