代金を支払うときに帳場にいた女性にお悔やみを述べると、店を継いでいる息子さんはいま古本市に出かけているということ、そしてその妹だという彼女が替わりに店番をしているということがわかった。街にいい古書店がなくなりつつあるがここは大丈夫らしい、とひそかに安心した。
そして、この正月休みは清水邦夫の作品を読みつづけることになったわけだが、このようにゆったりした気分で本を読むことができたのは実に久しぶりのことだった。それは、ようやく「沢木耕太郎ノンフィクション」という著作集が完結したことが大きかったかもしれない。「沢木耕太郎ノンフィクション」は、あの若い自衛官たちを描いた「防人(さきもり)のブルース」や、アンダーグラウンド演劇に関わる若者たちを描いた「この寂しき求道者の群れ」を書いてから以降のほとんどすべてのノンフィクションをまとめたものだ。三カ月に一冊のペースで刊行されたが、途中一度の休みをとったこともあり、全九冊を出すのにほぼ二年半かかった。
最初はごく気楽に考えていたが、刊行が開始されるといささか負担に感じられてきた。ゲラのチェックに手間がかかることは覚悟していたが、個々の作品について記すノートや巻末に連載したエッセイに予想外の時間が取られることになったからだ。しかし、それ以上に気重にさせられたのは、これが未来に向けての開けた仕事ではなく、過去に回帰する閉じられた仕事ではないかという窮屈な感じが強くなっていったからである。
ともあれ、いまはすべてが終わって、心地よい解放感を味わっている。
三十年あまりかけて書いてきたものがわずか九冊に収まってしまうということにある不思議さを覚える。少ないという気もするし、多すぎるという気がしないでもない。
だが、いずれにしても、すでに次の歩みは始まっているように思える。どこに向かうのか、どこに向かおうとしているのか、自分でも定かなことはわからないのだが。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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