忙しい朝も1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。 今朝は俵万智さん。
又吉直樹さんの『火花』が、芥川賞を受賞した。笑いへのこだわりが、切ないまでにばかばかしい、いやばかばかしいまでに切ない小説で、その切なさに凄みを感じる。
受賞会見の時のインタビューで、太宰治の名前が出ていた。又吉さんの敬愛する太宰は、芥川賞が欲しくてたまらなかったが、ついに受賞はかなわなかった。そのことに因んだ質問だろう。
太宰は、候補にはなったものの、落選。選考委員の選評を読んで激怒し、今で言う逆ギレのような反論を雑誌に載せる。それを読んだ川端康成が、また反論……ここで「えっ、川端康成って、あのノーベル文学賞の?」と思った人も多いだろう。そう、あの川端康成が選考委員だった時代もあるのだ。その後、太宰は泣き落としの手紙を送ったりもし、迷走を続け、この件は「芥川賞事件」とまで呼ばれるようになる。
『芥川賞の謎を解く 全選評完全読破』によれば「この事件のおかげで、芥川賞は、落ちた作家も話題になる文学賞という栄誉を勝ち得た」ということになる。それを受けるように、本書では、落ちた作家や作品のほうにも丁寧にスポットライトが当てられている。
芥川賞の特徴として「選考委員が豪華(大物)」「選評に読みごたえがある」「候補作が明らかにされる(つまり落選した作品もわかる)」というようなことがあげられる。もっとも、「めちゃくちゃ世間から注目される」というのも忘れてはならないだろうが。
本書は、「芥川賞の選評」という切り口で文学の歴史を眺めた、ユニークな1冊だ。未知の新人の作品に向き合うとき、選考委員である作家の文学観や読みの技量や、心の度量までもが試される。「選評」とは、まことに生々しくスリリングな読み物であることを教えられる。
著者は、読売新聞の文化部の記者。芥川賞を取材しつづけて25年のベテランだ。すでに亡くなった作家から直接聞いた貴重な話なども織りこまれていて、まことに興味深い。
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