忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。 今日は阿野冠さん。
泣きじゃくる清原和博なんて見たくない。
法廷画家の描いたイラストは悪意に満ちている。おれが知っている番長は、デッドボールをぶつけられてバットをぶん投げている荒武者。投手がケガをしないようにヒップアタックで制裁するところに惚れていた。
胸クソが悪い時、やることはひとつ。チャリをすっ飛ばして本屋に行くのさ。
平積みにされた文庫本のなか、ひときわ香ばしい一冊を発見。表紙ではメジャーリーガー川﨑宗則が大見得をきっている。タイトルは『逆境を笑え』。はしゃぎまくる川﨑選手が恋しくて、ひさびさのジャケ買いだ。
『グローブが届かなかった』
おれはその陰気な書きだしに面食らった。
カミュの『異邦人』における伝説的な一行目『今日ママンが死んだ』を想起させる。ポジティブな川﨑選手の著書とは思えない。そのギャップにやられ、一心不乱にページをめくった。
ふと、09年WBCを思い出す。
日本の二連覇がかかる韓国との決勝戦。延長10回の表、1アウト、1・3塁。代打、川﨑。逆転のチャンスに相応しい薩摩隼人の登場だ。背番号52が左打席に立つ。ネクストバッターズサークルでは、背番号51、イチローが待機していた。おれはテレビの音量を上げた。
その初球。イム・チャンヨンの投じた高速シンカ―にバットの先っぽがこする。乾いた音。ふらっとあがった白球はショートのグローブにおさまった。
『おれが打って、あとはイチローさんにとどめを刺してもらうつもりだったのに』
決勝打を放ったイチローより、凡打に倒れた川﨑選手の茫然とした顔を鮮明に憶えているのはなぜだろう。この本に出会うためだ。たぶんね。
野球の魔力に取りつかれた男たちがいる。
俊足巧打・川﨑宗則。豪打一閃・清原和博…。
そして、おれにぴったりな四字熟語は川藤幸三。背番号69を引っ提げて、明日も草野球で野次りまくるぜ。いわゆる『スタベン』ってやつだ。
チェストーッ!
薩摩示現流の猿叫を出せば、嫌な気分もスッと消えちまう。
けっきょく、野球は楽しんだもんがちだ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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