前回までのあらすじ
エイリアンハンドシンドロームという、自分の片腕が何者かに乗っ取られたかのように動くという奇妙な疾患に冒された高校生の岳士。しかし、片腕から聞こえてくるのは兄・海斗の声で、岳士はそれを嬉しく思う。
強引に治療を進めようとする両親のもとを逃げ出した岳士は、ひとまず多摩川の河川敷に落ち着くも、男性の刺殺体を発見してしまう。殺人犯と目され、追われる立場となりながら、事件の裏に危険ドラッグとそれを売りさばく集団「スネーク」の存在があることを突き止めたが、今度は売人カズマを張っていた刑事・番田に捕捉され、スパイになるよう持ちかけられる。事件解明のためその話に乗った岳士は一芝居打ち、スネークの幹部に近づいていく。
第六章
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「カズマの代わりに仕事をやりたいだぁ?」
脅しつけるようにヒロキが言う。岳士は動じることなく、「はい」と頷いた。
「お前さ、カズマがどんな仕事をやっていたか分かってんのか?」
「いえ、詳しくは聞いていません。けれど、どんなことでもやります。カズマさんが戻ってくるまでの間だけでも、俺に任せてもらえませんか?」
番田にカズマを逮捕させ、その代わりに組織の懐に入る。海斗が考えたその作戦の成否はこのやり取りにかかっている。どうにかしてヒロキの信頼を得る必要があった。
「小遣いならやるから、さっさと帰りな」
ヒロキは長財布から十枚ほどの一万円札を取り出し、差し出してきた。しかし、岳士は動かなかった。ヒロキの唇が歪む。
「てめえ、調子に乗ってんじゃねえぞ。お前みたいなガキに、カズマの代わりが務まるわけがねえだろ。怪我しないうちに、金持ってさっさと消えろ」
「どうやって俺に怪我させるって言うんですか?」
平板な声でつぶやく岳士の前で、ヒロキは「ああ?」と訝しげな声を上げた。
「ですから、どうやって俺に怪我をさせるって言うんですか? もしかして、そこの二人が俺をたたきのめせるとでも? もしかしてそいつら、ボディガードか何かですか? それなら、代わりに俺を雇ってくださいよ。そいつらよりずっと役に立ちます」
ヒロキの両脇に座っていた若い男たちが気色ばんで立ち上がろうとする。しかし、ヒロキに「やめろ!」と一喝され、顔を紅潮させながらもソファーに腰を戻した。
「お前、この二人相手に勝てるっていうのか?」
ヒロキの唇に、嘲るような笑みが浮かぶ。
「ええ、もちろんです」
再び立ち上がろうとする二人の男を、ヒロキは腕で制した。
「それなりに喧嘩慣れはしているけどな、こいつらは別にボディガードってわけじゃねえよ。ボディガードはカズマだ」
「カズマさんが?」
「ああ、そうだ。といっても、四六時中俺についてるわけじゃねえ。でかい取引があるときに、その場に立ち会うんだよ。トラブルになったとき対処するためにな。うちの組織の中でもあいつは、武闘派の貴重な人材だった。お前がその代わりをできるっていうのか?」
「ええ、できます」
岳士が即答すると、ヒロキの顔から潮が引くように嘲笑が消えていった。
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