前回までのあらすじ
エイリアンハンドシンドロームという、片腕が何者かに乗っ取られたかのように動く奇妙な疾患に冒された高校生の岳士。しかし、その腕から聞こえてくるのは兄・海斗の声で、岳士はそれを嬉しく思う。強引に治療を進めようとする両親のもとを逃げ出した岳士は多摩川の河川敷に落ち着くも、男性の刺殺体を発見。殺人犯と目され、追われる立場となりながら、事件の裏に危険ドラッグとそれを売りさばく集団「スネーク」の存在があることを突き止めたが、今度は売人カズマを張っていた刑事・番田に補捉され、スパイになるよう持ちかけられる。事件解明のためその話に乗った岳士はスネークの幹部相手に一芝居打ち、カズマの後釜に収まることに成功する。さっそく仕事の報酬としてもらったサファイヤを“上客”に売るが、対面した彼女はまだ高校生で、岳士の制止も聞かず大量のサファイヤを服用し、ビルの屋上から飛び降りてしまった。
第七章
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フェンスから身を乗り出した岳士は絶叫しつつ、三十メートルほど離れた地面を眺める。そこには、四肢をありえない形に曲げたセーラー服の少女が、仰向けに横たわっていた。
震える右手を伸ばしたまま、岳士は眼下の光景を凝視し続ける。やがて少女の体の下から染み出した赤い液体が、アスファルトの上に広がっていった。視界から遠近感が消え去り、地面に向かって吸いこまれていくような感覚に襲われる。
『あぶない!』
左手が胸元のフェンスを押す。後方へと体を押し返された岳士は尻餅をつくと、右手をゆっくりと顔の前にかざした。
少女の手の感触が指先に残っていた。
助けられなかった。
・・・・・・また助けられなかった。
「つっ!?」
左手に焼けるような痛みが走り、岳士は顔をしかめる。
いま、左手首から先の「権利」は海斗が持っている。左手の感覚はないはずだ。だというのに、炎に炙られるような痛みが攻め立ててくる。
歯を食いしばりながらライダーグローブに包まれた手に視線を向けた瞬間、脳の奥底から湧きあがった記憶の奔流が意識を飲み込んでいった。
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