書評

剣呑な愛の行方

文: 豊崎由美 (書評家)

『伶也と』(椰月美智子 著)

〈その瞬間、直子の全身をこれまで経験したことのない感覚が走り抜けていった。衝撃だった。細胞のひとつひとつが一斉に開いてゆく。つぼみの開花を早送りするように、直子の身体が一気に外に向かって拓けていった〉

 そのボーカリストこそが〈○○〉の正体、伶也だったんです。

 真面目にこつこつ頑張る理系女子で、性格的にも外見的にも地味で、対人関係にも物事全般に対しても熱くなるということがなかった直子の内面が、この出会いを契機にコペルニクス的転回を遂げます。初体験のライブから半年あまりで、一気にメジャーへの階段を駆け上っていったゴライアス。何事にも努力と研究を怠らない直子は、ツイッターやフェイスブックを活用して、ゴライアスや伶也関係の友人を増やし、常に最新の情報を入手していきます。初めて大きめの会場で開かれるライブの、プラチナチケットもネットオークションで見事ゲット。そればかりか、終演後には、伶也が通っているという六本木にある会員制クラブで待機して、なんとか接触を試みようとまでするんです。

〈直子は、個人的に伶也に近づきたいと切望していた。この熱情をこのまま放置しておくことはできなかった。ひとつずつ着実に行動し努力を怠らなければ、現状よりはいくぶんいい方向にいくことを直子はこれまでの経験上知っていた。勉強でも研究でも同じだった。可能性が一%でもあるならば、チャレンジしてみたかった〉

 で、飲んでいて排泄しない人はいないという確信から、トイレに近い席で待機。話しかけることに成功したばかりか、伶也からメールアドレスを教えてほしいと言われます。それからは、自分の評判や評価が気になって仕方ない小心者(直子から見れば、〈ものすごく繊細〉)の伶也からは、賛美や肯定を求めるメールが頻繁にやってくるようになり、狂喜乱舞。ついには、食事の誘いまで!


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伶也と椰月美智子

定価:本体730円+税発売日:2017年12月05日