2014.11.20 書評

ただの恋愛小説ではない!
深化していく愛が、迎える結末とは

文: 内田 俊明 (書店員(八重洲ブックセンター 八重洲本店))

『伶也と』 (椰月美智子 著)

あい【愛】
1 親子・兄弟などがいつくしみ合う気持ち。また、生あるものをかわいがり大事にする気持ち。「―を注ぐ」
2 異性をいとしいと思う心。男女間の、相手を慕う情。恋。「―が芽生える」
3 ある物事を好み、大切に思う気持ち。「芸術に対する―」
4 個人的な感情を超越した、幸せを願う深く温かい心。「人類への―」
5 キリスト教で、神が人類をいつくしみ、幸福を与えること。また、他者を自分と同じようにいつくしむこと。→アガペー
6 仏教で、主として貪愛(とんあい)のこと。自我の欲望に根ざし解脱(げだつ)を妨げるもの。
(小学館『デジタル大辞泉』)

 一口に「愛」といっても、いろいろな意味がある。椰月美智子はこのいろいろな「愛」を、家族愛や男女の恋愛といった形で一貫して描きつづけ、数々の傑作を生み出してきた。

 その「愛の小説」の名手が、前記のようないろいろな愛の意味を、一つの作品に凝縮して描いたのが、最新作『伶也と』。椰月美智子の集大成といえる、圧倒的な作品となった。

 主人公・直子は、日常にすこしの不満やいらだちを抱えて生きる、平凡なOLとして、はじめは登場する。そんな直子の日常は、友人の由佳に連れていかれたロックバンド「ゴライアス」のライブで、ボーカルの伶也に出会った瞬間に一変する。

 メジャーへの階段をかけのぼっていく伶也を追い求め、ファンクラブに入会し、ネットオークションで高額なチケットを買い、あげく大金を使って、ついに伶也と個人的な知り合いになることに成功する。(この伶也との個人的な出会い方がとても興味深かった。過去、有名人に夢中になったことがない身にも、ああなるほど、セレブと知り合うにはこういう手があるのかと、とても自然に感じられた。詳しくは作品をお読みください。)

 この段階での直子の愛は、キラキラした「恋愛」。さきほどの辞書の意味でいえば2番目の愛にあたる。しばらく直子のキラキラした恋愛が続くのかと思いきや、ほどなく愛のかたちは別なものに変貌していく。

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伶也と
椰月美智子・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年11月13日

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