もう我慢できないとばかりに叔母が声を上げる。
二人の様子に、きりり、とありすのお腹が痛くなる。
だが、自分のために二人が争う姿を見るのは、これが最後なのだ。
「お、叔母さん、大丈夫だよ。叔父さんの言う通り交通費はもういらなくなったんだから……」
ありすが、ショルダーバッグの中から小さな財布を取り出そうとすると、それを遮るように初老の紳士が前に出て、「どうぞこれを」と叔父に封筒を差し出した。
「随分、行き届いてるじゃねぇか」
叔父は、彼の前で無遠慮に封筒の中身を確かめて、「おっ」と声を上げる。
予想していたよりも、多く入っていたのだろう、たちまち上機嫌な様子を見せた。
「そんじゃ、ちょっと出掛けてくる。ありす、元気でな」
「はい、叔父さん、お世話になりました」
ありすは、深く頭を下げる。
叔父はありすの方を見ようともせずに片手を上げて、軽トラックに乗り込み、そのまま走り去った。
おそらく、いつものようにパチンコに行ったのだろう。
叔父がパチンコに出かけるたびに叔母は機嫌を悪くしていたが、ありすはいつも心からホッとしていた。
彼にとって、厄介払いができたと喜んでいるのは分かる。
とはいえ約八年間、共に生活してきて、別れの時だというのに素っ気ないものだ。
叔父も、そして自分も――。
ありすはぼんやりそんなことを思いながら、叔父の軽トラを見送る。
「ありす様、どうぞお車に」
背にそっと手を添えて車に乗るよう促す紳士に、ありすは我に返って頷き、後部席に乗り込もうとすると叔母が慌てたように駆け寄り、肩に手を置いた。
「ありす、気を付けてね」
「はい」
「・・・・・・ありす、本当にごめんなさいね。義兄さんと姉さんが亡くなった後、うちに来てもらったのは良いけど、あなたには満足なことをしてあげられなくて……。京都で生まれ育ったあなたが東北の田舎に来ての、貧乏暮らしは応えたでしょうね。結局、高校も行かせてあげられないことになって、本当に・・・・・・」
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2018.02.15ニュース
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