2018.01.17 書評

〈恐怖の帝王〉スティーヴン・キング、その続編にして集大成にして新境地!

文: 有栖川 有栖 (作家)

『ドクター・スリープ』(スティーヴン・キング 著)

『ドクター・スリープ』(スティーヴン・キング 著)

〈キャリーが怒ると石の雨が降る〉

 このコピーが、私にとってスティーヴン・キング史の幕開けである。

 主人公はサイコキネシスの能力を持つ少女。彼女が母親の虐待とクラスメイトのいじめに耐えた末に、恐ろしい破壊を引き起こす『キャリー』(キングのデビュー作)が日本で出版されたのは一九七五年で、私は高校一年生だった。ある日の朝刊で前記のコピーを掲げた広告を目にし、「これだけではどんな物語なのかさっぱり判らないが、きっと面白い」と確信し、単行本を手に取ったら──読む前に見た新聞広告まで忘れられない一冊となった。

 第三作の『シャイニング』も、大学生の懐には痛いハードカバーの上下本を買って読んだ。帯にはスタンリー・キューブリック監督による〈映画化〉が謳われていて、「この作家のすごさは日本ではまだ広まっていないけれど、アメリカではもう周知のことなのか」とうれしく思ったものだ。当時はモダンホラーどころかホラーという言葉も日本では一般的ではなく、私は恐怖小説とかオカルト小説と認識していた。

 その後、キングがたちまち〈ホラーの帝王〉の座に駆け上がっていき、世界的な人気作家として旺盛な執筆活動を現在に至るまで続けているのは読者もよくご存じのとおり。高校生時代にデビューを目撃して「これは大物になるね」と感じ(上から目線)、それがかくも鮮やかに現実のものとなったのはキングとエアロスミスぐらいで、自分は伝説の始まりから立ち会っている同時代のファンだ、という意識を抱いている。

 作品の質・量とも怪物的で、映像化されて大ヒットした作品がたくさんあるキングの代表作はというと、ファンの間でも意見が分かれるところだろうが、投票をしたら前述の『シャイニング』がベスト3にランクインするのは固い。本書『ドクター・スリープ』は、その続編である。

 前作を受けての物語ながら、いきなりこの作品から読んでも楽しめるし、主人公ダニーの過去に何があったかについては作中で何度も言及されているが、『シャイニング』について簡単にご紹介しておこう。

 外界から孤立し、冬季は閉鎖されるオーバールックホテルに小説家志望のジャックとその妻ウェンディ、息子のダニー(五歳)がやってくる。ジャックは、春まで広壮な豪華ホテルの管理人を務めながら創作に打ち込むつもりだった。ところが執筆は捗らず、彼の苛立ちは募るばかり。超能力〈かがやき〉を持ったダニーは、ホテルに不穏なものを感知して怯える。ここでは、かつて世にも無惨な事件が起きていたのだ。ジャックはホテルに巣食う禍々しい力に取り込まれていき、錯乱して妻子に襲いかかる──。



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