2018.01.21 インタビューほか

奥山景布子インタビュー「維新に引き裂かれた悲運の四兄弟」

「オール讀物」編集部

『葵の残葉』

『葵の残葉』(奥山景布子 著)

 奥山さんが今回初めて、幕末を生きた歴史上実在の人物を主役にして描いたのは、“高須四兄弟”の物語だ。

 尾張徳川家の分家である高須松平家に生まれた四人。次男・慶勝は尾張徳川家、五男・茂栄は一橋徳川家、六男・容保は会津松平家、八男・定敬は桑名松平家へと養子に入って当主となる。だが、時代の動乱の中で、兄弟は維新派と佐幕派に分かれ、やがて対立することに――。奥山さんが最初に興味を持ったのは、慶勝だったという。

「写真好きの殿様としてテレビで紹介されていたんです。慶勝は長州征伐で幕府軍を率いた際、機材を持ち込んで写真を撮っているんですよ。気になって彼のことを調べるうち、西欧の進んだ技術力をいち早く理解し、当時の情況を冷静に分析して動いていたことがわかってきました。さらに弟たちのことも知り、兄弟が歴史に関わったスケールの大きさに気づいて、一度は書くのを投げ出しそうになりました」

 長州征伐の総督に任じられた慶勝は、内戦を避ける形で長州の処分を決着。戊辰戦争では新政府側についた。一方、容保と定敬は最後まで佐幕派につき、徳川慶喜が大坂から退却した際には開陽丸にも同乗していた。

「こんなにたくさん資料が残っている人物や題材を扱ったことがなかったので、どう小説にしたらいいのか戸惑いました。でも、徹底的に資料に当たるうち、兄弟それぞれの性格や出来事の繋がりが見えてきたんです。慶勝はたくさん写真を残しているので、それも手がかりになりました。

 高須四兄弟は母親も違いますし、もちろん現代の兄弟のあり方とは違ったと思いますが、緊迫した情況で、手紙のやりとりをしている。藩主の手紙なので文面こそ硬いのですが、そこに兄弟の絆を感じました。しかも、維新後に四人で再会し、写真も残しています。それぞれ違った道を経て激動を生き延びた彼らの胸の裡には、複雑な思いがあっただろうと思います」

 大政奉還後、慶勝は徳川一門を生き残らせるべく新政府側につく。そのためには、尾張藩内の佐幕派を粛清する必要があった。

「明治維新というと、薩摩や長州、もしくは官軍に抵抗した会津などにスポットが当たることが多いですよね。でも実際は、朝廷と幕府、どちらにつくか、迷いながら様子を見ていた藩の方が多く、尾張藩と似たようなことはいろんなところで起こっていたのではないかと思います。今年は“維新一五〇年”が注目されていますが、これまでとは違った角度から、幕末維新を知っていただけると嬉しいです」


おくやまきょうこ/一九六六年愛知県生まれ。二〇〇七年「平家蟹異聞」でオール讀物新人賞を受賞。ほかの著書に『稽古長屋 音わざ吹き寄せ』『たらふくつるてん』等。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 2月号

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