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【冒頭試し読み】『インフルエンス』

文: 近藤 史恵

三人の少女を巻き込んだ不可解な事件「サクリファイス」の著者が描く現代社会の焦燥感と緻密な心理サスペンス

『インフルエンス』(近藤史恵 著)

 プロットや題材を考えるのは地図を書くようなものだが、実際に書くのはその地図を片手に知らない夜道をとぼとぼと歩くことに似ている。地図がいくら緻密で、土地が絶景続きであっても楽しめるかどうかはわからない。そして、わたしはどちらかというと、ラフな地図を片手に、あまりドラマティックでない道を歩く方が好きだ。

 せっかく、素晴らしい地図だったとしても、わたしが書くことで無駄にしてしまうかもしれない。

 だから、こういう話は聞くつもりはない。なのに、少し引っかかったのは「わたしと友達ふたりの関係」というところだ。自分の人生が波瀾万丈だとは言っていない。自分と友達ふたりの関係に、わたしが興味を持つだろうと言っているのだ。

 友達同士など、いざこざや問題が起きない方がうまくいくに決まっている。

 喧嘩をして、心を割って話すほど関係が深まるなんてわたしは信じていない。適度な距離を保ち、相手を尊重して傷つけないこと。そして一緒にいる時間は楽しく過ごすこと。それがわたしの考える関係が長続きする方法だ。

 もちろん、長いつきあいになる友達で、過去に傷つけてしまったことのある人はいる。でも傷つけずにいられるのならその方がよかったはずだ。

 そしてわたし自身は、ひどいことを言われたり、された人とは友達関係を続けたいとは思わない。喧嘩はしないが、そっと距離を取る。

 さっと読んだときは、読み落としていたが、文末にはこんな一文があった。
 

 実はひとりに、膵臓癌(すいぞうがん)が見つかりました。

 彼女が亡くなったあとには、もう話すことはできません。もし間違っていても、彼女は訂正できないからです。

 どうか、一時間だけでも時間を取っていただけないでしょうか。
 

 わたしは父を膵臓癌で亡くしている。

 だから、その癌が発見しにくいことも、治療が難しいことも知っていた。それと同時にこの手紙の書き手の姿勢に、これまで自分の話を書いてほしいと言った人たちと、違うものも感じた。

 彼女に、公正に話したいという気持ちがあるのなら、単なるナルシストとは違う気がした。
 

 以前新聞で、大阪にお住まいだと読みました。

 わたしも大阪です。興味を持っていただけましたら、メールや電話などいただけるとうれしく思います。
 

インフルエンス近藤史恵

定価:本体1,500円+税発売日:2017年11月27日


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