わたしは少し考え込んだ。
もしかすると、彼女がわたしに手紙を送ろうと思ったのは、わたしが比較的近くに住む同い年の小説家だからかもしれない。
どういうものを書いているかをさっと調べて、そして一冊だけ読んでみて決めたのかもしれない。愛読者というわけではなく、そんなふうに選ばれたのだと考える方が気楽だった。
熱烈な愛読者だと言われると、こちらも期待を裏切ってはいけないような気持ちになる。
わたしは、パソコンの前に座って、メールを書くことにした。
*
その人はわたしの顔を知っていると言った。
たしかにインターネットで、わたしの名前を検索すれば、顔写真はいくらでも見つかる。決して有名というわけではないのに、因果な商売だ。
できることなら、写真など撮られたくないし、全世界に向けて顔写真を公開するなんて、なるべく避けたいことのはずなのに、それは小説を書くということに当たり前のように付随してくる。
もちろん、強い意志を持って拒めば別だが、取材は本を知ってもらえる貴重なチャンスだからありがたいのも事実だ。
そしてこんなときにも。
待ち合わせをしたのは、ホテルのラウンジだった。
平日の午後にもかかわらず、ラウンジはほぼ満席だった。「待ち合わせです」と従業員に断ってから、中に入る。
女性のひとり客を探しながら奥に進むと、窓際の女性と目が合った。彼女は一瞬、驚いたように目を見開いた。それからわたしに会釈する。
わたしは彼女の前の席に座った。
「はじめまして」
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