別冊文藝春秋

『全国フードコート放浪』深町秋生――別冊コラム「偏愛がとまらない」

文: 深町 秋生

電子版18号

「別冊文藝春秋 電子版18号」(文藝春秋 編)

 この原稿を、イオン山形南のフードコートで書いている。

 丸亀うどんのダシ汁とお好み焼きのソースの香りが、一日中漂うエリアだ。隣にはトイザらスとあって、ときおり「おもちゃ買ってけろ!」という子供の絶叫が響き渡るのだが、なにかと執筆しやすいので、ここを根城にしていることが多い。

 なにしろ、テーブルと椅子の高さがバッチリで、無駄にだだっ広くて開放感がある。土日祝日の昼間でもないかぎり、四人掛けのテーブルを悠々と独占できる。調子がでないときはソフトクリームやドーナツで糖分を補給するか、買い物に出て気分転換をする。イヤホンで音楽を聴いてるので、子供の絶叫対策も万全である。

 自宅で原稿が書けないとわかって十年以上が経つ。集中力が散漫な性格で、自室にいるとすぐにAVを見る、ゲームをやり出す、実話系週刊誌を読み出すなど、とにかく仕事にならないので、近くのカフェやフードコートに出没するようになった。執筆しやすい場所を求めてさまよっていたら、やがてそれがライフワークになった。

 テーブルは薄ければ薄いほうがいい。変に分厚かったり、下に出っ張りがあると足が組めない。痔主なので椅子はクッションつきがいいけれど、簡素なプラスチック製で充分だ。かえってホテルラウンジのようなソファのほうが腰を痛める。

 都内は残念ながら論外だ。平日の昼間でもせわしく、「勉強等はお控えください」という注意書きがあり、そもそも混雑していて落ち着かない。どこでもいいわけではないのだ。

 一昨年も、熊本でトークショーをやったとき、同地在住のマンガ家の高浜寛さんに、菊陽町のゆめタウン光の森というショッピングモールを案内してもらった。ジャンボサイズのフードコートで、テーブルや椅子のサイズは文句なしだった。

 たぶん、土日は混みあうだろうが、平日の夕方とあって、ひじょうにのんびりとした雰囲気で、「この近くに、いっそ引っ越そうか……」と、桂花ラーメンをすすりながら思った。

 一見すると、フードコートなんてのはどれも同じに見えるもので、マクドナルドやミスタードーナツ、サーティワンアイスクリームがだいたいあるのだが、前述した桂花ラーメンのような地元系もたいていある。静岡富士宮のイオンには、富士宮焼きそばがあり、熊谷のイオンでは、行田名物のB級グルメ“フライ”を食べさせる店があった。フライとは、お好み焼きとクレープの中間くらいにあたる粉モノのおやつだ。

 もっとも好きなフードコートは私のホームタウンであるイオン山形南とイオン盛岡だろうか。

 イオン盛岡のフードコートはとにかくひろい。でかい。地平線が見えそうなくらいに広大だ。フードコート以外にも、ジュースバーやスタバがあるので、同地を訪れるたびに一日中入り浸っている。

 北海道釧路から沖縄那覇まで。観光地や名所はあまり訪れないが、旅に出るとフードコートは必ずチェックするようになった。なにもショッピングモールだけに限らない。観光物産館や空港も捨てがたく、旅情を味わいながら執筆に励める。

「『吉田類の酒場放浪記』みたいに、『深町秋生のフードコート放浪記』って番組はどうすかね。けっこう語れますよ」

 と、地元のテレビ局のえらい人に話を持ちかけたことがある。なにがおもしろいのか、さっぱりわからんという顔をされたけれど。

ふかまち・あきお/一九七五年山形県生まれ。二〇〇四年、『果てしなき渇き』で第三回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー。同作は「渇き。」として映画化。一一年『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』がベストセラーに。シリーズは累計四〇万部を突破。その他の著書に『地獄の犬たち』『バッドカンパニー』『デッドクルージング』『ダブル』『ダウン・バイ・ロー』『ヒステリック・サバイバー』『ショットガン・ロード』『卑怯者の流儀』『探偵は女手ひとつ』『ドッグ・メーカー』など。

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