たとえ現実に居場所がなくとも、仮想空間が発達した世の中なのだから、スマホを通じていつでも誰とでも繋がり合えるはずなのに、自分を孤独だと感じている人は、少なからずいるのではないでしょうか。人との繋がりが目に見える時代になったからこそ余計に感じてしまう孤独、というのは僕らの社会が新しく抱えることになった深刻な悩みと言えます。
どこにも自分の居場所を見出せない人たちが、『バビロンの階段』には多く登場します。彼らはみな、このままではいけないと思いながらも、自分が何をしたらいいか分からず、何をしても間違っているような気がして、人生という名の船をなかなか漕ぎ出せずにいます。書き始めは僕も不安に思う船出でしたが、主人公のみっちぇるが脇目も振らずに西へ東へ奔走し、様々な人々と出会うことにより、話は風に乗ってすいすい進んでいきます。みっちぇるのような苦境にある人物でも、人との繋がりを生み出していける姿に、僕は幾度となく驚かされました。
小説家は物語で起こる出来事を、前もって把握していると思われがちですが、僕はそういうアプローチを試みません。一切の予定調和を廃し、まず僕が興味を持てる人物に出会い、わくわくする出来事に遭遇しなければ、わざわざ本にする必要はないと考えているからです。その手法はエキサイティングである一方、袋小路に陥るリスクも孕んでいます。それは友達ができる時に似ているかもしれません。
友達とは、友達になろうと言ってなるものではありません。無理に仲良くしようとしてもすぐに離れてしまいますし、気が合えばいつの間にか友達になっています。そういう自然な出会いを小説でも描けるよう心がけており、『バビロンの階段』では、予期せぬ繋がりに恵まれ、賑やかな作品になっていきました。
本作は、一応青春ものと名打っていますが、甘酸っぱさやきらきらしたものを期待すると肩透かしを食らうかもしれません。ですが、もしあなたがなぜ学校へ行かなければならないのかと疑問を持っていたり、どうして就活なんてしなければいけないのかと悩んでいたりするのであれば、登場人物たちの必死さには何かしらのシンパシーを覚えることもあるでしょう。時に彼らはあなたが普段言えないことを口にし、あなたの代わりに傷つき、あなたにもちょっとしたきっかけで繋がりは生まれるのだと、身を以て示していきます。
この作品を読んで、緊張した人生の糸が少しでも緩んでいるのであれば、それは僕が得られる最大の達成と言っていいでしょう。皆さんと『バビロンの階段』との出会いがよいものであることを、願っています。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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