2018.05.15 特集

戦中派の退場

文: 與那覇 潤

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤 著)

(初出:『文藝春秋』2014年6月号「安倍総理の「保守」を問う」)

 元日に放送された「この国のカタチ2014」というNHKの討論番組に出た際、若者中心のオーディエンスには、タイトルが司馬遼太郎(1923年生)の『この国のかたち』のパロディだという意識がないのに驚きました。現在の保守や右傾化と呼ばれているものにしても、それが「自覚せざるパロディ」になっていないか、という点検が必要ではないでしょうか。

 右傾化の最大の背景は「戦中派の退場」だと思います。司馬や山本七平(21年生)のような軍隊体験を持つ人々が、国民大の物語の書き手として保守論壇の中心にいた頃は、戦争を日本人自身の「失敗」として捉えるという自意識が強くあった。存命の方だと読売新聞の渡邉恒雄さん(26年生)が、靖国参拝問題に関しては明確に安倍政権に反対しているのも、敗戦直前に徴兵されて、日本軍というものがとても自慢できない組織だと知っているからでしょう。

 これに対し、兵隊に取られるより前に終戦を迎えた結果、少年期に思い描いていた「欧米列強と対等な世界の強国」とは異なる国(=端的には対米従属国)で成長し大人になったことへの、割り切れなさを感じている世代を「戦後派」と呼びます。海軍エリートの家系に生まれた江藤淳(32年生)がその象徴でしたが、岡崎久彦・渡部昇一(ともに30年生)・石原慎太郎(32年生)・西尾幹二(35年生)の各氏など、政権ブレーンないし「右傾化」の文脈で名前の挙がる方々がみなこの世代。当初はある種の世代間闘争だったはずのものが、54年生まれの安倍首相を媒介として、隔世遺伝のように繰りかえされているという印象を持ちます。

 安倍さんのお祖父さんはご存知のとおり岸信介ですが、戦前すなわち「祖父」の名誉にこだわる人々が、なぜ戦後という「父」の達成は唾棄して省みないのか。父親の不在が過剰なマッチョイズムを生むという逆説が、日本の保守の最大の矛盾だと思います。



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知性は死なない與那覇 潤

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