- 2018.07.11
- インタビュー・対談
<村山由佳インタビュー> 性愛を描いた衝撃作ふたたび
「オール讀物」編集部
『ミルク・アンド・ハニー』
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
自立した女性のリアルな性愛を、女性の側から活写し、著者にとって転機となった『ダブル・ファンタジー』から、約十年。待望の続編が刊行になった。すべてを支配しようとする夫・省吾との暮らしを捨て、俳優くずれの恋人・大林一也と生活をはじめたが、同居を始めた途端、大林は奈津を放置、金を無心しては、飲み歩く毎日をくりかえす。満たされない奈津は再び、先輩の岩井、演出家の大御所・志澤、あやしげなエステサロンのAV男優など、さまざまな性的彷徨を繰り広げていく……。
「続編を書くに際してまず思ったのは、前作『ダブル・ファンタジー』と同じ気づきにしか至れないなら、わざわざ書く意味はないということでした。亡くなった渡辺淳一先生から前作に寄せて頂いた言葉が忘れられなくて。『欲を言えばラストにいま少しのふくらみと、性への思索的な実感があればと思うが、ここまで来ればそこに至るのも時間の問題だろう』。最初に言われたときは、その言葉を理解出来ていたと言いづらいのですが(笑)、いつかその域にたどり着いてみたいと、強く思いました。単に性愛の虚しさや孤独を描くのではなく、その先にある生の哀しさや喜びにまで深化させて描く。書き終えてみて、おっしゃっていた意味が少しつかめた気がします」
大林と入籍した奈津だが、ライターの加納、そして従弟の武との出会いが、彼女を大きく変えていく。性的経験の豊富な加納との逢瀬は、奈津にまた別の扉を開かせるが、それが大きなトラブルを招く。一方で、記憶の中では幼い男の子だった武は、猛々しい牡の魅力を湛えて現れる。その変化に驚きつつ、昔から変わらない武とのやりとりを通して、奈津は、いままでの男に見せられなかった「本来の自分」を見出すが……。
「続編を書くにあたっては、私自身に、奈津にとっての武のような人との出会いがあったのも大きかったです。前作に続いてタイトルはジョン・レノンとオノ・ヨーコのアルバムから採りましたが、それも彼のアイディアでした。書き手自身と重なる部分の多い物語だからこそ、小説として面白く読めるか、連載中も常に自問自答していましたね」
前作のラストで「自由であることの寂しさ」に気づいた奈津は、『ミルク・アンド・ハニー』で、乳と蜜の流れる「約束の地」にたどり着けるのか。生と性の冒険を繰り返す女性を通して、肉親、恋人、そして創作する自分自身に対する様々な葛藤を描き出し、さらなる飛躍を感じさせる作品だ。
むらやまゆか 一九六四年東京都生まれ。二〇〇三年『星々の舟』で直木賞を受賞。〇九年『ダブル・ファンタジー』で柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞を受賞。
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