- 2016.09.10
- 書評
誠実な恋人か官能的な元彼か──「自分の心に嘘をつくな」という真実の愛へのエール
文:ブルボンヌ (女装パフォーマー/エッセイスト)
『ありふれた愛じゃない』 (村山由佳 著)
女の浮気は嫌われる。男女平等という言葉は建前としては目指すべき大切なものとされているし、男女雇用機会均等法が施行されてからもう三十年も経っている。ところが先進国としては極端なほどに低いままの女性管理職の割合。男の浮気は甲斐性やジョークになっても、女の浮気は憎まれ続けているのが現実だ。いまだに社会的にも感情的にも、「女のくせに」は根深く残っている。
そんなアタシは子供の頃から「男のくせに」と言われ続けたオネエさんだ。村山由佳さんとはラジオのお仕事でご一緒して以来、勝手に「由佳ねえ(姐?)」と呼んで仲良くしていただいている。そのご縁のおかげか、由佳ねえが文庫の解説者として推薦してくれた。一応、ライター業なども営んでいるが、実はフィクションの小説はほとんど読まない。ヤバい、書けるだろうか、と焦りながら、不慣れな読書に挑戦してみると、ドラマを観ているかのような魅力的なシーンとキャラクターの連続に、あっという間に読めてしまった。それでいて、セリフの一言、情景描写の一語に、濃厚な味わいや確かな裏付けを感じる。とっつきやすいが奥も深い、イイ女のような世界。由佳ねえの印象がそのまま作品に現れていて、先に人となりを知って読むという、普通の読者さんとは違う楽しみ方もあった。
そしてなぜアタシをご指名していただいたのか、も伝わってきた。まず分かりやすく、「ジョジョ」がいたこと。揺れ動く真奈の心に、辛辣さと笑いで返すオネエキャラだ。タヒチの高級ホテルのバーと、新宿二丁目の路面店じゃずいぶんと格は違うが、シンパシーを感じずにはいられない。実際、昨今のオネエブームの影響もあって、うちの店にも幅広い世代の女性客がそれぞれの想いを抱えてやって来る。女の悩みを語る相手として、同じ女だと上下の意識が生まれるし、男では理解できないと思われがち。蚊帳の外でありながら鋭く忌憚ない意見を言うオネエ枠は、ちょうど良い存在なのだ。考えてみれば、働く女たちの恋とセックスを描き、世界じゅうを席巻したドラマ・映画『セックス・アンド・ザ・シティ』では、主人公四人組のうち、二人にゲイの親友がいたし、旧友のマツコ・デラックスの大ブレイクは、日本じゅうの女たちにとってのソレと言っても良いはずだ。
ジョジョは言った。「何を迷ってるの? 逢いたければ逢えばいいし、抱かれたければ抱かれればいいじゃない。あんたたちがいったい誰のために何を我慢してるんだか、あたしにはさっぱりわからないんだけど」と。たとえば海外のゲイシーンでよく登場する単語に「オープン・リレーションシップ」というものがある。一緒に生活しながら、一夫一婦的な価値観に縛られない状態のことだ。アタシ自身、四半世紀以上の同居を続けるライフ・パートナーと呼ぶべき、おばさんのようなおじさんゲイがいる。彼には絶対の信頼を置いていて、一緒に猫二匹を子供のように育てているが、恋やセックスはそれとは別に、まるで隠さず数多く楽しんできた。こういう関係を聞くと一部の人は拒絶反応を起こす。別にアタシがその人と恋愛やセックスをするわけじゃないのに、他人の恋愛スタイルが自分と違うことを許せない人たちは本当に多いのだ。もちろん、ジョジョはそういう関係のことを言ったわけではなく、「自分の心に嘘をつくな」という、より情熱的な真実の愛へのエールだった。いずれにしても、横並びが美徳とされがちな日本では、常識だの良心だのしがらみだのが、自分の本当の想いに向かうのを足止めしてしまう。
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