銭湯からの帰りがけ、歩は珈琲牛乳を飲みながら、火照った顔で河を眺めた。父は隣で、やはり火照った顔で、フルーツ牛乳など飲んでいた。河辺は鉄柵で区切られており、柵の向こうは五メートル程の護岸壁になっている。河はその護岸の底を流れる。対岸は急峻な山の斜面と繋がっており、谷底を流れる河にも見える。山の落葉樹は、裸の梢に萌黄色の葉を僅かにつけたばかりで、未だ隙間が目立った。夏になれば、この山は緑の堆積を増すだろう。
河面の所々では、巨大な岩石が顔を出していた。岩石の周囲で、水は流れたり滞ったりしている。せせらぎはそこから響いてくる。歩はふと、さきほど湯船に見た少年を思い出した。彼が中学三年生ならば、数日後には学校の教室で顔を合わせることになる。
「お父さんはもう、職場に新しい友達はできた?」
歩が訊くと、父はなぜかくすくすと笑い、
「大人になるとね、友達になるとか、ならないとか、そういう関係じゃなくなってくるんだよ。」
「それって寂しい?」
すると今度は困ったような微笑みを浮かべた後に、首を傾げて見せた。ときに母が見せる仕草に似ていた。父はフルーツ牛乳を一息に飲み干した後に、
「歩も新しい学校に、早く馴染めるといいな。」
歩にとっては、三度目の新しい中学校だった。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。