本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
【冒頭立ち読み】第159回直木賞受賞『ファーストラヴ』

【冒頭立ち読み】第159回直木賞受賞『ファーストラヴ』

島本理生


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ファーストラヴ』(島本理生 著)

「皆さん、愛とは与えるものだと思っていらっしゃいますよね。じつは、それが原因だったりすることもあるんです」

「え? いや、それは間違いなんでしょうか?」

「けっして間違いではないんですけど、正しくは、愛とは見守ること、なんです」

「しかし先生、見ているだけなら、いつまでたっても状況は変わらないんじゃないですか?」

「ひきこもりのお子さんを抱える親御さんに多いのが、過剰にお子さんに気を向けすぎてしまっていることなんです。それって一見、子供想いに思えますよね。だけどじつは親御さんが先回りしすぎることで、本人の自主的な意思を奪ってしまっている場合があるんです」

 森屋敷さんは四角い顔で深々と頷いた。包容力を滲ませた表情につられるように、気付けば熱く語っていた。

 収録は二時間ほどで終わった。

お疲れさまでした、と頭を下げて、スタジオを出る。控室に置いた革のトートバッグを回収して、テレビ用の眼鏡を外してケースにしまい、トレンチコートを羽織った。

テレビ局前のロータリーには一台だけタクシーが止まっていた。夜風に首を竦めつつ駆け寄る。

 ドアが開いたと思ったら、先に中にいたのは森屋敷さんだった。

単行本
ファーストラヴ
島本理生

定価:1,760円(税込)発売日:2018年05月31日

プレゼント
  • 『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/4/19~2024/4/26
    賞品 新書『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る