「皆さん、愛とは与えるものだと思っていらっしゃいますよね。じつは、それが原因だったりすることもあるんです」
「え? いや、それは間違いなんでしょうか?」
「けっして間違いではないんですけど、正しくは、愛とは見守ること、なんです」
「しかし先生、見ているだけなら、いつまでたっても状況は変わらないんじゃないですか?」
「ひきこもりのお子さんを抱える親御さんに多いのが、過剰にお子さんに気を向けすぎてしまっていることなんです。それって一見、子供想いに思えますよね。だけどじつは親御さんが先回りしすぎることで、本人の自主的な意思を奪ってしまっている場合があるんです」
森屋敷さんは四角い顔で深々と頷いた。包容力を滲ませた表情につられるように、気付けば熱く語っていた。
収録は二時間ほどで終わった。
お疲れさまでした、と頭を下げて、スタジオを出る。控室に置いた革のトートバッグを回収して、テレビ用の眼鏡を外してケースにしまい、トレンチコートを羽織った。
テレビ局前のロータリーには一台だけタクシーが止まっていた。夜風に首を竦めつつ駆け寄る。
ドアが開いたと思ったら、先に中にいたのは森屋敷さんだった。
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