2014.12.25 書評

北朝鮮の真実に迫る
極上エンターテインメント

文: 藤原 伊織

『国境 上下』 (黒川博行 著)

 最近、黒川博行は中古の外車を買ったという。そのクルマの名前を「イオリン号」というらしい。命名の謎を知りたい人は、次の文章を参考にしていただきたい。

 

 藤原伊織をわたしは“イオリン”と呼ぶ。イオリンはわたしよりひとつ年上だが、わたしのことを“おっちゃん”と呼ぶ。(中略)で、この解説では藤原伊織をイオリンと書くことにする。

 

 拙著『雪が降る』の文庫に黒川博行が書いてくれた解説の冒頭である。私は本人がいないときに話題がでたときも、“黒のおっちゃん”と呼んでいる。だから、ここでもおっちゃんとするかどうか迷ったが、真似をするのはいかにも能がないので以下、黒川博行と書く。

 この黒川解説にもあるが、われわれは非常にしばしば麻雀をする。黒川博行の住居は大阪の羽曳野(はびきの)、私は東京なのに、なぜこんなにやるのか、とアホらしいほどの頻度でやる。どうしてそうなったか。そのへんの事情はくだんの文章(さきにいろいろ書かれてしまったが、名文です)に詳しいので、本屋さんで立ち読みしてください。

 ここでクルマ命名の由来にもどると、もうおわかりであろう。つまりご本人は「このクルマは、イオリンが麻雀の払いでおれに買(こ)うてくれたようなもんなんやで」といいたいらしいのである。ところがこのまえの台風で、黒川邸二階にあるクーラーの室外機が落っこちてボンネットを直撃、クルマはぐちゃぐちゃになった。やはり、嘘をつくとてきめんに天罰がくだるという見本である。

 しかしじっさいのところ、黒川博行は麻雀がものすごく巧い。ギャンブルエッセイでは、自分のミスを自虐的に誇張するクセがあって、バカ笑いしているうち、それが黒川流サービス精神の旺盛な発露にほかならないのだとふと気づく。この傾向は大阪人にありがちなものの、彼の場合は過剰といっていい。私にはとうていあの芸当は真似できない。

 黒川博行と私には共通項がじつに多く、大阪育ちという点もそのひとつである。ただこっちは東京暮らしが長いせいか、大阪へ帰っても時間をおかないと大阪弁がでなくなった。ところが黒川博行と話すときだけは、東京にいてさえ、なぜか瞬時にして大阪弁に切りかわる。どうも彼のお喋りには、強力な感染力があるらしい。そのうえどんな人を相手にしても、どんな場所にいても、その大阪弁の口調が変わることはない。

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国境 上
黒川博行・著

定価:本体680円+税 発売日:2014年12月04日

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国境 下
黒川博行・著

定価:本体650円+税 発売日:2014年12月04日

詳しい内容はこちら



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