従業員は奴隷ではないということにブラック企業の経営者は気づくべきだ

カトクが入る九段合同庁舎

━━『カトク』の主人公、労働基準監督官の城木忠司は新庄さんと同世代の設定ですね。働く側、働かせる側双方と誠実に対話を重ねて心を開かせていくスタイルが新鮮でしたが、なぜこのような主人公にしたのでしょう?

新庄 今回の作品を書くにあたって、実際に労働基準監督官の方に話を聞かせてもらったんですが、もの静かなタイプの方で、眼光するどい刑事のような威圧感はなく、出来ることをコツコツやっていこう、という印象をうけたんです。また、その姿勢に好感をもったので、その辺が反映されているかもしれません。もっとも、そうしたもの静かな登場人物に設定したせいで、明快な勧善懲悪物語に仕上げることがむずかしく、執筆時は作中の城木よろしく右往左往してしまいましたが(笑)。

━━一方で、作中には高度成長の時代を忘れられないような、経営者や幹部クラスの社員も出てきて、自分の信念を開陳する場面をあります。こういった世代間の意識の違いも読みどころですね。

『カトク 過重労働撲滅特別対策班』(新庄 耕 著)

新庄 ブラック企業としてここ数年話題になった経営者の方たちを見て感じるのは、「俺はこれだけ頑張ったのに、なぜお前らにはできないのか」という認識がどこかしらある気がします。

 彼らにとっては、自分が創業した会社を寝る間も惜しんで大きくしていく過程は、苦しくも充実したものだったろうし、自分自身を強く信じさせてくれる糧にもなったのだろうと理解できます。しかしいざ経営者となったときに、それと同じやり方を従業員に強いるのはやはり与しがたい。従業員は奴隷ではありませんから。搾取している感覚がないままに、従業員を搾取しているということに気づいて欲しいですね。

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