- 2018.09.25
- インタビュー・対談
構想12年の力作、冲方丁長篇ミステリー『十二人の死にたい子どもたち』に込めた想いとは──後編
「別冊文藝春秋」編集部
2019年1月、映画化決定!
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#エンタメ・ミステリ
――今回は、冲方さんには珍しい“推理劇”でもあります。
冲方 いわゆる探偵ものの手法を取り入れつつ、ワトソンという助手は登場させない。それが今回僕が自分に課したルールでした。なぜなら「賢者と愚者」という、あくまで対の関係性でキャラクターを呼応させたかったから。
賢者役が探偵的な役回りをすることになっても、決して探偵がひとりで謎解きを牽引していくということにはならないようにして、愚者だと思われている人間が意外な本質を衝いてみたり、とにかく、物語の構造が常に変化していくのが理想でした。
実はこの作品を書くときに、アガサ・クリスティなんかもだいぶ読み直したんです。そこで改めて、ミステリーって理性と意図からなる協奏曲だなと思って、だったら僕は「偶然」というファクターを入れてみようと思って。
――冲方さんといえば模写するほどのスティーブン・キング好きとして有名ですが、クリスティなどの正統派ミステリーも読まれるのですね。
冲方 かつてはずいぶん読みました。でも、クリスティ作品のなかで僕がいちばん好きなのは、『春にして君を離れ』で、トリック推しの作品じゃない。あの作品は、主人公の主婦ジョーン・スカダモアの目線でえんえん物語が進んでいきます。読者には、語られていることが真実なのか、本人の思い込みなのかもわからない。そのうち、主人公がある事実に気づきそうになるのだけれど、怖くなって、自分の中の“謎解き”をやめてしまう。張りめぐらされた伏線から真実を手繰り寄せるというよりも、主人公がただひたすら自分の心の解剖にハマっていくという内省的な構造が好きで、今回の作品はいわば、ジョーン・スカダモアが十二人集まったら面白そうだというところから始まったともいえます。