- 2018.09.25
- インタビュー・対談
構想12年の力作、冲方丁長篇ミステリー『十二人の死にたい子どもたち』に込めた想いとは──後編
「別冊文藝春秋」編集部
2019年1月、映画化決定!
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
つまり、SFや歴史時代ものの場合は世界の約束事や仕組み、価値観をすみずみまで提示しないと読者が想像できないけれど、現代ものの場合は人物の性格を書くだけでおのずとその人の生活や環境まで見せられるという利点があるのだから、それを生かさない手はないと思ったんです。
この作品では、そうやってひとりひとりの子どもたちの向こうに立ち上がる風景が普遍的なものであってほしかった。それが見えて初めて現代を書けたことになると信じていたので。
――現代を掬い取ろうと考えたのですね。
冲方 デビュー当時から“現代もの”にはいつか本気で取り組みたいと思っていました。でも、現代という、読者とのあいだに共通了解が生まれやすい時代を舞台にするなら「自分ならでは」の切り取り方をしないと面白くならないなと戒めてもいて。
僕はもともと「課題型」の創作スタイルで、一作ごとに今回破りたい壁はこれだと目標を意識してやってきました。時代設定についても、まずはSFという形式で現代の延長線上にどんな世界が存在し得るかということを徹底的に考え、次に、現代のルーツとしての“時代もの”に挑戦し、いわば周りをきっちり固めてから本丸を攻めるのがいいんじゃないかと思っていました。
実際書いてみて、これは楽しいなと。記号を記号として効果的に使うこともできるし、反対に、書き込む情報を削ぎ落とすことで、想像を促すこともできる。たとえば、煙草を吸っている少年を少女が非難する場面で、「お里が知れるわね」というニュアンスのことを少女が口にします。この少女の感覚は、たぶん読者も共感してくれるでしょう。また、ある子が不治の病だと告白したら同情が集まることも想像に難くない。こういう読者との共通認識が成立することで、密室の密度が膨らみ、密度が膨らめば、同時に外側の社会のことも想像しやすくなる。多くを語らずとも、きっとこの子の家では母親が支配的で、父親は無関心なんだろう、などとバックボーンが想像できるようになる。